「日本の政治家の方にも、日本の医療界の方も分かってほしいのは、『日本の感染症診療体制はうまくいっていなかった』ということです。まずはその認識をちゃんと持っていただきたいですね」
この2年間の日本の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策について、治療の現場を担ってこられた埼玉医科大学総合医療センターの岡 秀昭先生は前回、こう言い切りました。
病院の感染症対策を担う専門医は、日本全国で1622人(2021年8月時点)。「日本の300床以上の総合病院はおそよ1500病院あります(厚生労働省調べ)ので、単純計算で病院に1人いるかどうかになりますね」(岡先生)
どうしてこんなことになったのか?
「率直に言えば、今までの日本の医療界では『感染症科っていらないよね』と思われていたからです」(岡先生)
岡先生、そして峰宗太郎先生に、ここまでの日本の新型コロナ対策を振り返って、いま考えるべき課題は何なのかを語っていただきます。
(前回はこちら)
埼玉医科大学 医学部総合医療センター 総合診療内科/感染症科 教授
第5波の対応が“うまくいっちゃった”弊害
岡 秀昭先生(以下、岡):新型コロナは現在最も注目される研究対象になっていますが、その他にも耐性菌の問題とか、新しい感染症もあるし、まだまだ未解決のことも多い。さらに臨床面においては、感染症というのは血液内科をやっていても、リウマチ科をやっていても、外科をやっていても不可避な分野です。「でもそれは誰でもできる」と思われていたんだけれども、実はそうじゃないことがあらわになりました。
この国がコロナ禍で学ぶべきなのは、「感染症の対応なんて誰でもできる、終わった学問だ」という認識は間違いだった、ということです。「(感染症に)まともに対応できる人がとても少ない、それは養成を怠ってきたからである」ということをちゃんと認めて、反省することだと思います。そして、それに対してどうしていくかということになると思うんですね。
ですので今、第5波の対応が“うまくいっちゃった”ことで、この問題が忘れられることを恐れています。
峰 宗太郎先生(以下、峰):僕は病理医なので臨床自体は直接診ないんですけれども、解剖はたくさんやってきました。それを通して、感染コントロールの基礎ができてない人によって、いじくられてしまった症例の悲惨さをたくさん知っています。神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎先生は、ずっと昔から「感染症は片手間でやるものでもないし、できているやつなんて、ほとんどいない」ということをずっとおっしゃっていて、それはすごく私も思っています。
感染症医が必要な患者の症状とは
この辺り、日本以外の国ではどうなのでしょう。
峰:今、自分がいる米国ではどうかというと、専門家をすごく一生懸命、育てているとは感じます。理想的な形態でできているところがどれぐらいあるかは、専門ではないので分かりませんが、感染症医というスペシャリティーをきちんとリスペクトしている姿勢は伝わってきます。
すみません。岡先生、前回、病院の感染症対策の司令塔として専門医が必要、というお話を伺いましたが、診療のほうはいかがでしょう。新型コロナウイルス感染症というのは、どの程度のレベルの対応から、感染症の専門の医師を必要とするのでしょうか。
岡:少なくとも第5波までの新型コロナ診療に関しては、軽症の患者さんについては、感染隔離の予防策と、バイタルサインの確認で重症化を見抜くということができれば、本来なら医師であれば誰でも診られるはずなのですよ。ところが重症(下の図を参照)の患者さんは違います。集中治療、呼吸管理ができなきゃいけない。そして、コロナのさまざまな最新のエビデンスに従った治療薬を使いこなさねばならない。
『新型コロナとワクチン わたしたちは正しかったのか』より
岡:さらに、ICU(集中治療室)では、重症の患者さんは合併していろいろな感染症を起こします。たまにアスペルギルス(真菌症、免疫力の低下によって普通は悪さをしない真菌=カビが肺に入り感染症を起こす)を起こすこともあるし、これはやはり「医師免許を持っている人全員ができるのか」というと、たぶん無理でしょうね。
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