米国式に倣うのは難しい

:重症の患者さんに関しては、集中治療の先生と協力しながら、感染症の医者と診ていくということが患者本人にとっても望ましいと思う。でも、そこが難しいんですよ。人工呼吸器の数、ECMO(エクモ、体外式膜型人工肺)の数がいくらあっても、それを回せる人がいなければ意味がありません。

 結局のところ、人なんですよ。いつも飛行機の例え話をするんですけど、ボーイングの大型旅客機を何機買っても、軽飛行機やヘリコプターの操縦士がいきなり飛ばせるか、ということなんですよね。その操縦士を養成してこなかったわけだから、大型機があるからすぐに飛ばせろ、と言っても無理なんだと。そういう話をしているんですけどね。

 そして、もちろんそういった操縦、つまり医療、感染症診療といったものが、ライセンスがある人であれば誰でもできるように標準化して、簡易化させていくことも重要だと思うんです。いずれにしても、やはり専門家の養成というのはとても重要です。

 ならば、米国なり、養成している国の制度に倣って日本も、と。

:じゃあ、例えば米国式でやるか、というと、日本の場合、難しいんですよね。やっぱり医療制度の違いがありますから。ただでさえ皆保険を成り立たせるために医療費の問題もあって。たぶん米国のように完全に専門に分化させて、感染症専門医を育てていくには、皆保険との兼ね合いをどうするかが大きいんじゃないかと思うんですよ。

 日本でできる理想的なこととしては、岩田先生がおっしゃっているけれど、「ジェネシャリスト」なんですよね。ジェネシャリストの養成なんですよ。

 ジェネラリスト、ではなくて、ジェネ“シャ”リストですか?

:GENECIALISTですね。ジェネラリスト、スペシャリストの二元論を越えるべきだ、という。

:ジェネラルな、汎用的な視点を持ちつつ、スペシャリスト、専門性もある。つまり外科の先生であろうと、循環器の先生であろうと、感染症診療が「ある程度は」できる。そういう能力のある人を育てていかなきゃいけない、ということです。

 でも、その教育は誰がするのかとなると、それはやっぱり専門医じゃなきゃできないと思うので、最初はやはり感染症の専門家を育てていって、それこそベッド数当たりに何人かの割合で専門医、あるいは教育者、リーダーシップを執れる人がいるようにする。そして、感染症の専門医というのは病院全体の感染症対策を指揮するのが役割だよ、というところをちゃんと明確化させて、そしてそれぞれの専門家にベーシックな感染症診療というのができるような教育をしていく。こういう体制が日本には合っているんじゃないかと思います。

雇用の問題が立ちはだかる

:合理的な方策だと思います。それをやるには、何が必要でしょうか。

:その際には、感染症専門医の雇用という問題があると思います。僕たちがいても、現行の制度では儲からないないですからね。そのため、公的医療機関で一種、二種とか指定されていても(第一種、第二種感染症指定医療機関のこと。第一種は都道府県域ごとに、第二種は2次医療圏域ごとに1カ所)、感染症専門医がいなかったところもある。

 えええっ。

:先にも申し上げた通り、感染症医の充足率は高くないんですよ。だから、実際に感染症、例えばHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症を診ている病院は一部に偏るわけですよね、東京では駒込病院とか、国立国際や慈恵医大、東京医大などに。拠点病院なのに専門医不在を理由に診てないところはたくさんあるはず。専門家を養成していくということは大切なんだけれども、こんな現状一つ取っても、やっぱり米国のようにやっていくのは難しいと思う。

 それは、感染症のお医者さんを雇っても病院が儲からないから、ですか。

:どうして感染症の専門家が充足しなかったかというのは、公的な病院でも「やらなきゃいけない」とは思いつつも、普段は需要がないし、感染症は基本的には抗生剤で抑えられる、そこそこ誰でもできる、と考えているので、専門医の雇用に手を出さないわけですよ。

 僕ら感染症医はある意味、「医療の安全のための保険」でもあるし、医療の質を担保する役割がある。峰先生のような病理の先生もそうだと思います。ならば、それで儲かるかというと、循環器や外科の専門医のような、直接目に見える利益は生まないと思う。

 でも、それがいない病院というのは非常にまずいわけです。感染症の治療を専門家に相談できない病院は危ないんだということを理解してもらいたい。

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