:それは、やはり人の問題でしょうか。

:その通りです。

 人手不足ですか?

:言ってしまえばそうなのですが、もうちょっと長期的で深刻な話です。政治というのはベッド数の数合わせやお金の補助が、話題として分かりやすいせいか対策の中心になりがちで、現場が困っていることがなかなか伝わらない。

 日本の医療は、というか、世界的にもそうかもしれないですけど、いい治療薬や道具が出ても、使い方があんまり得意じゃないんですよ。「薬が出たら安心」というわけじゃないんですけれどね。

:そうですね。正しく評価して、使い方を戦略的に考えて、現場が使いやすいようにする必要がある。

:それです。薬の評価の仕方、そして薬の使い方というのが成熟していないんですよね。専門家が少ないですし、そこが不十分だと、治療薬が出てきたところで、現場が使い方を間違えては十分に効果を上げるどころが、悪影響すら出かねませんから。

 なので、医療の人材の育成・充実。新型コロナを契機にそこにフォーカスを当ててほしいなと思うんです。僕が支持する政党ではないけど、若干でも人のことを扱っていたのは衆院選挙において共産党だけなんですよね。そして何より特に今回明らかになったのは、救急医、感染症医が圧倒的に不足していることです。

「ここまで何とかなったから」で、終わりにされるかも

 失礼な質問かもしれませんが、お医者さんの側から「そこを解消しよう」という声は上がらないんですか。

:難しいですね。専門意識が高いですし、一方で米国ほど専門分化されて人員が豊富でなくて、縦割りが強い中で、どこの分野も「うちだって人が足らない」となりがちで、そこを動かしていくのはなかなか難しかった。今もできているとは思えないですけど。

:うーん。

:問題は、この課題が消えたわけじゃないのに、ここまで何とかなってきちゃっていることなんですよ。ですのでむしろ恐ろしいのは、これで仮に第6波が起きない、あるいは小さく抑えられた場合に、今、ちょっと聞く耳を持つ人が増えている感染症専門医や集中治療医の不足という課題、これが忘れ去られるんじゃないか。その点も心配していますね。

:なるほど。確かにのど元過ぎればというか、今せっかく……せっかくという言い方はよろしくないかもしれませんけれど、不幸中の幸いで、感染症や救急の専門医がいかに足りていないか、それがどのように問題を拡大してしまうかについて、「何とかなったから終わりにしよう」ということになってはいけない。私もそう思います。

 一般論としてはもちろん分かりますが、どうも自分には問題点がピンときていない気がします。岡先生に、具体的に伺ってもいいでしょうか。どんな問題があるのですか。

:岡先生から、第5波のとき、一番苦労されたことからお話ししていただけたら。

:はい、第5波は日本の東京都、首都圏に関しては最大の波でした。ワクチン接種が進みかけていたんですが、やはりまだ未接種者を中心とした重症者の増加を抑えられないところで始まりましたので、当院でいえば、用意している病床の中で「プレハブ」と呼んでいる、病院の離れにある、今まで使わずに済んでいた病床まで動かすことになりました。

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