マップボックス・ジャパンは、ソフトバンクと米マップボックスの共同出資会社として設立された。アプリやWebサイトに地図機能を搭載できるシステムを企業向けに提供する。路線検索やカーナビゲーションなど地図と直接的に関わるサービスはもちろん、モバイル決済「PayPay」が利用可能な店舗を地図から探せる機能など、関連機能として地図をアプリに組み込むケースも多い。その裏側を支えている。
スマートフォンアプリ版「Google マップ」をはじめとするデジタル地図は、スマホの普及に一役買うキラーコンテンツの1つ。GPS(全地球測位システム)情報を組み合わせ、今いる場所から直感的に目的地までの道のりを探せるアプリ版地図はスマホとの相性が抜群だ。ただ、事業会社がそういった地図機能をアプリに組み込みたいと考えたとしても、変化し続ける景観に対応し続けるなど、独自のノウハウが必要になるため自社開発は困難。そこで、Google マップやマップボックスのような専業の地図開発プラットフォームが重宝される。
マップボックスの地図の接点は6億人
マップボックスの地図を導入するアプリは全世界で4万5000を超え、トータルのMAU(月間利用者数)は6億人に上るという。ただ、「決定的に不足していたのが、地図そのものから収益を上げられる機能だ」とマップボックス・ジャパンCEO(最高経営責任者)の高田徹氏は言う。
振り返れば、多くのネットサービスは検索サイトと検索連動型広告、動画サイトと動画広告、というように広告技術と二人三脚で発展してきた。デジタル地図の発展にも広告技術が欠かせない。そう考え、マップボックス・ジャパンは自社のネットワークを生かした広告サービスの開発に着手。それがようやく日の目を見たというわけだ。日本法人設立の狙いは当初から、日本発で地図サービスの収益基盤を開発することだった。新たに始める広告事業は、グローバルでは展開しておらず、日本発のサービスとなる。この地図広告がリアルタイムマーケティングの新しい潮流として注目を集めそうだ。
現在主流のビーコンや位置情報を活用したリアルタイムマーケティングのプラットフォームは、スマホから取得したデータとの連係が必要不可欠。消費者からデータ利用の許諾を得たり、個人を特定できないようにデータを加工する匿名化技術を開発したりするなど、各社が独自でプライバシーに配慮した仕組みを取り入れている。
地図は利用目的がターゲティングそのもの
一方、地図は利用目的そのものが限りなくリアルタイム、かつ多くの場合リアルな行動が伴っている。「どこかに行く、店を探すという地図利用の行動が広告配信のコンテクストになる。サービスがターゲティングのシグナルそのものになっているのが特徴だ」(高田氏)。移動データなどを使わずとも、リアルタイムなニーズに沿った広告配信が可能。そこでマップボックスの広告サービスは、あえて当面ターゲティングメニューを設けずに提供する。
「広告主にとっては物足りないかもしれないが、まずは利用者が地図で特定の場所を見ているという文脈に沿って広告を配信する。とはいえ、北海道から新宿の地図を見ている人と、現地で見ている人では情報ニーズが異なる。いずれは特定の範囲内にいる人にだけ広告を表示するといったメニューが必要になると考えている」とマップボックス・ジャパン広告ソリューション事業管掌バイス・プレジデントの山崎友敬氏は説明する。
広告商品は主に2種類を開発している。いずれも地図と一体化した「ネイティブ広告」である点が特徴だ。地図の画面上に広告枠をつくり、ディスプレイ広告を配信するだけなら、既存の広告配信の仕組みでも実現可能。だがそうした広告を表示すると、地図の表示スペースが減るなど利便性を犠牲にすることになる。地図の利用体験を損なわない広告サービスの開発は、地図開発会社ならではだ。
1つ目の広告サービスは「プロモーテッドピン広告」。ヤフーが提供する地図アプリ「Yahoo! マップ」のiOS版でテスト的に販売している。これは、表示された地図の範囲内に存在する店舗などの場所をアイコン(小さな画像)で表示するもの。広告主のサービスや業態に合わせてアイコンをつくり、地図上にちりばめられる。表示する画像はブランドロゴや、サービスを想起させるものなど、比較的自由に対応可能。アイコンをタップすると、カード状の画像が表示され、電話番号やルート検索などのアクションを促せる。飲食店、小売店、ディーラーなど店舗を持つ企業は地図上にアイコンを表示して集客できる。
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