実は、リーダーシップは、専門性に限定されず、本来は誰もが発揮することができる「職能横断型」のスキルです。だから、リーダーシップを強くしていくことで、あらゆる職業の人が、それぞれの組織の中でもっと輝くようになります。そして、誰もが主体性を持って充実した毎日を送るために、自分のやりたいことを実現していくために、周囲の人をまとめて動かす能力、つまりリーダーシップを必要としているのです。

 では、どうすればもっと人を動かせるようになるのでしょうか? どうすれば我々はより強いリーダーシップを身につけられるのか? 本書はそれらについて私の考えをまとめたものです。

“ある経験”を積むことによって、誰もがリーダーシップ能力を意識的に伸ばすことができる

 リーダーシップを執れるかどうかは、要するに自分が一歩前に出る勇気を持てるかどうか、つまり“荒馬に乗れるか?”ということです。落馬して大怪我(けが)するかもしれない馬を目の前にして「それでも乗りたいか? 乗れるのか!?」と自問自答をしているようなものです。荒馬に一度乗ってしまうと、振り落とされそうになりながらも、その状況を必死にコントロールして自分の目的地に何とか辿(たど)り着かねばなりません。瞬時の決断力と行動力が必要で、その判断を支えるブレない信念が大切です。そして信念がブレないのは、どうしても成し遂げたいことへの強い欲求があるからです。

 実は、リーダーシップの強弱は、“才能”よりも、その土台となっている“欲の強さ”で決まっています。その人が、どうしても成し遂げたいことがあるかどうかが、すべての始まりであり、何よりも大切なのです。何が何でも成し遂げたいならば、考えるし、工夫するし、行動します。リーダーシップが身につけられるかどうかの分岐点は、成し遂げたいことを見つけられるか?に、ほとんど懸かっているのです。

 いやいや、やはり才能だと思われる人もいるでしょう。欲の強さでさえも才能の一つだと…。

 しかし、どんな才能も、その強弱で人々を並べると正規分布しています。才能のバラつきには個人差があるといっても、社会全体としてはなだらかな山型の分散になっていて、一人一人の差異は“連続”しているはず。人間である以上は、ほとんどの人が1標準偏差以内の差、つまり一定の幅に収まっているはずです。馬やチーターとあなたの足の速さを比較するのとは違います。同じ人間同士を比べるのに、差があるといっても、そんな2標準偏差や3標準偏差を飛び越えるような圧倒的な差なんて滅多(めった)になくて、ほとんどの人の才能は、実は“だいたい同じ”ということです。

 そして、私が何よりも確信を持って言いたいのは、他人と比べて才能があるかないかを考えるなんて、自分自身にとっては時間の無駄というか、そんなことを考えて何の意味があるの!? という、実にくだらない、全く意味がないということです。天才のように見える人がいたとして、あるいは自分よりも才能がなさそうに見える人がいたとして、その人と比べて自分の才能の有無を推し量るなんて、その結果から一体どんな前向きな行動が取れるのでしょうか? 相手が上? 自分が上? で!? だからどうするのでしょうか!? まさに愚問中の愚問でしょう。

 その愚問の構図は、ダイエットで例えればわかりやすいかもしれません。敢(あ)えて比較してみると、確かに、太りやすい体質、痩せやすい体質、生活習慣、個人差は色々あるでしょう。しかし、他人と比べて自分がどのくらい痩せやすいかをどれだけ考えても1gも痩せませんよね? それよりも、“自分が”どれだけ本気でダイエットを成し遂げたいのか、それをどれだけ自分が強く欲するか?です。その覚悟を固める自分自身の中の精神的な戦いに集中すべきでしょう。だって、どんな個人差があろうとも、シンプルな1つの法則(ダイエットの場合は、摂取カロリーを消費カロリーが上回れば誰でも痩せる)を満たせばよいだけなのです。他人は全く関係ありません。人と比べている暇があったらさっさと運動の一つでもやりましょうという話。それと同じです。

 リーダーシップを身につけるのにもシンプルな法則があります。それはある“特定の経験を積むこと”です。そのためには、リーダーシップを獲得するための原点である「欲」を強く持たねばならない。まずは本人が痩せたいと強く願わない限り全く成功しないダイエットと、その点でも同じなのです。要するに、自分にとって「やりたいこと」を、どうすれば周囲を巻き込んで、自分が望むカタチへ自分の景色を変えていけるか?ということ。そこにどれだけ執着できるのか?ということです。

 もしもそんな「やりたいこと」がなくても「自分の人生はそれでいいねん」と言う人がいれば、それはそれで全く問題はないと思います。それはその人自身が決める問題です。しかし、欲のない人はどうすればよいのか?という問いかけにも本書は全力で応えます。本編で詳述しますが、端的に言うと、欲のない人はいません。しかし、それを意識できている明瞭さには個人差があるという話です。

 強いリーダーシップ能力の獲得は、目的ではなくてあくまで手段にすぎないはずです。その能力を身につけてあなたは何を達成したいのか? まずは、その目的(≒欲)を明瞭にすることが大事です。そして、この本を手に取っている以上、あなたにも何らかの欲が必ずあるということ。それは、間違いありません。そんなあなたには、じっくりと自分自身を内省することで「何を欲するか」を明瞭にしていく作業が必要でしょう。身近なこと、自分にとっては大事なこと、そんな中からどんな小さなことでもよいので「やりたいこと」を探すことから始まります。

 大丈夫です。その答えは、あなたの中にあります。その最初の一歩を踏み出せるかどうか、すべてはそこから変わります。

 私は今まで、国籍や人種の多様性を含めて、実に多くの人々をビジネスの最前線で見てきました。そして私自身も含めて、多くのビジネスパーソンが苦労し、大きく成長・変容しながら、リーダーシップを獲得していく様子をまざまざと見てきました。それらの観察から言えることは、現在は強力なリーダーシップを発揮しているビジネスパーソンでも、その多くが社会人になった当初は、今からは程遠い低レベルであったという事実です。したがって、私は、リーダーシップは育つものだと確信しています。生まれ持った「特徴」に、必要な「経験」と、適した「環境」が合わさると、誰であってもその能力は劇的に成長します。

 本書を執筆している目的は、私がこれまでに知り得た、リーダーシップを意図的に伸ばしていくための王道をお伝えすることです。

 リーダーシップとは何か?について定義づけた書籍はごまんとありますが、自分がどうやってリーダーシップを身につけていけばよいのか? その道筋を明瞭に示した書籍は非常に少ないです。また、学者や批評家の皆さんがリーダーシップを客観的に論評した書籍もごまんとありますが、壮絶な火中で実際に苦心を積み上げてきた実務者が、本当に本人の言葉で書き綴った書籍は極めて稀(まれ)です。さらにその両方の掛け算に耐えられるものとなると、私には見つけることができませんでした。本書の着眼点はそこにあります。

 リーダーシップが求められる実際の現場では、理論書に書いてあるような理想的なリーダーシップ行動を頭では正しく“わかっている”としても、それに沿った“正しい”行動を取ることは、別次元に大きなチャレンジになります。さまざまな制約条件としがらみの中で、不確かな情報しかなくて判断自体を迷う自分自身の精神状態の中で、常に暴れる感情と戦いながら目的のために正しい決断と行動を連続していくことは、“奇跡”です。その実践者しかわからない成長過程における苦しみと葛藤の“手触り”を追体験していただくことも本書の狙いです。

発売直後から大反響! 好評発売中!

 コロナ禍の今こそ必要なのは、自分の意志と選択で未来を変えるための「 リーダーシップ 」。自分も人も活かせる存在になるために何をすればいいのか、最強スキルを獲得するためのノウハウを詰め込みました。

 リーダーシップは、意図的に経験を貯めることで、身についていく後天的なスキルである──。一度しかない人生を、自分自身が「やりたいこと」を実現させる人生へとシフトチェンジさせたい人に、ぜひお読みいただきたい1冊です。

 著者自身も、最初から優秀なリーダーだったわけではありません。苦しみながら、どのように「人を活かす」「人を本気にさせる」スキルを身につけていったのか。自身の「悪戦苦闘のリーダーシップ」を、エピソードを交えて語り尽くします。

 本書終盤では、コロナ災厄時代のリーダー論を展開しています。「『安全』といえばすぐに社会的使命を放棄しようとする日本の風潮はおかしい。なぜならば、『100』のままでもマズいけれど、すぐに『0』にしていては長期戦必至のコロナ災厄を日本人が生き抜くことはできないからです」(本文より)。著者が考える、コロナ災厄からの大胆な「 出口戦略 」も。

※この記事は日経クロストレンド「 森岡毅の「あなたの人生を変えるリーダーシップ革命」」に掲載されています。

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