3つのフェーズでカスタマーサクセスを実施

 ラクサスの取り組みはカスタマーサクセスの手本になる。まず、顧客に提供すべき成功体験を3つのフェーズに分けている。最初は「導入期」だ。BtoBの領域ではオンボーディング(導入支援)とも呼ばれ、非常に重要なフェーズに当たる。ここを乗り切れば、サービスの定着化につながり、継続率が飛躍的に高まるからだ。ラクサスではサービス契約後、利用期間が3カ月を超えると継続率が急激に高まるという。最初の2カ月間で顧客に与えるべき成功体験は「ブランドバッグを持ったことで、出掛けるときに高揚した気持ちを味わうこと」(児玉氏)と定義している。

 ファッション好きなら、お気に入りの洋服に身を包んだり、好みのコーディネートができたりしたときには気分よく玄関を開けられるもの。ラクサスのバッグがあることで、こうした気分を味わうことが成功体験となる。

 ラクサスではサービス開始当初、ブランドバッグの実売価格を載せていたが、これが成功体験を阻害していた。なぜなら、高価なバッグから借りてしまう傾向があるからだ。せっかくなら、自分では購入が難しいバッグを借りたいという心理が働くのもうなずける。だが高級バッグが利用者に最適とは限らない。手持ちの洋服に合わない、高い割には思ったよりデザインが気に入らない。そんなミスマッチを起こせば体験価値を大きく損なう。だから、価格で比較されないように掲載をやめた。

 また、すべてのバッグにコーディネートを載せるようにした。「ファッション雑誌のキラーコンテンツはずっと着回しだ。通販サイトはバッグのディテールばかりを載せているが、そこには疑問があった」と児玉氏は言う。ラクサスではすべてのバッグに約5種類のコーディネートが載っている。自分の普段の好みと似たコーディネートを参考にバッグを選べば、イメージと実物のギャップが小さくなる。これだけで、コーディネート掲載前と比較して、CVR(コンバージョンレート)は1.7倍に高まったという。

ラクサスはバッグと顧客のミスマッチを避けるために、すべての商品ページに約5種類のコーディネートを掲載している
ラクサスはバッグと顧客のミスマッチを避けるために、すべての商品ページに約5種類のコーディネートを掲載している
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 加えて、導入期に顧客に体験させるべき重要なサービスにバッグの交換がある。所有しないから、価格を気にせず好きなバッグと交換して使い回せる。これがラクサスの本当の価値だ。「1カ月の間にバッグを2回交換する人としない人では、前者の方が継続率は明確に高い」(児玉氏)。

 そこで、初回登録時に1万ポイントを付与するようにした。ポイントは1ポイント1円として利用できる。ラクサスの利用料は月額6800円のため、1万ポイントは約1.5カ月分に当たる。「利用者の多くはポイントが余るのがもったいないという心理が働くため、半額分を支払っても2カ月は継続してくれる」と児玉氏はポイント設定の秘訣を打ち明ける。収益を圧迫し過ぎず、かつ2カ月の継続利用につながりやすい絶妙な設定だ。

 ではなぜ、2カ月なのか。その理由は「1カ月だと、交換のための配送期間がもったいないと思われてしまう。2カ月あれば、1回ぐらいは交換してみようと思ってくれる」(児玉氏)からだ。バッグを交換できる猶予を与えることで、出掛けるときに高揚した気持ちを味わうという成功体験が生まれやすくなる。

継続会員限定の2個持ちプランで不満解消

 2つ目のフェーズは「定着期」だ。ラクサスを使い慣れて、生活に根付き始めた顧客がここに当たる。定着期に入ると継続率は安定する傾向にあるが、だからといって何も手を打たなくていいわけではない。定着期における顧客の成功を定義することが、優良顧客に引き上げるためのカスタマーサクセス施策につながる。ラクサスでは「継続率が20カ月以上で、年4回以上バッグを交換する人」が優良顧客であると明確に定義している。そこで、定着期にはより自由に交換を楽しめるように、2つのバッグを借りられる「ダブルプラン」の利用を促す。

 ダブルプランは通常価格の2倍の月額1万3600円(税別)を支払うことで、2つのバッグを借りられる。ラクサスの欠点はバッグを交換すると、新しいバッグが手元に届くまで、手元にブランドバッグがなくなること。サービスを使い慣れて、ブランドバッグが手元にあることが当たり前になった顧客こそ、この欠点に煩わしさを覚える。ダブルプランを契約すれば、片方は手元に置いておける。また、通勤用とプライベート用といった使い分けもできるようになる。これが定着期における成功体験になる。

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