同じことはユニクロの売り場でも展開されている。こちらでは、生活シーンを見せる中でさりげなく家電などを展示するケースが多い。ユニクロの店員がシーンを考え、ビックカメラの店員に相談して、ふさわしい家電やIT機などを配置してもらう。そうして衣料品を買いに来たユーザーを、ビックカメラの売り場まで“回遊”させているという。

ユニクロの売り場横に置かれた、マネキン人形を使った生活シーンの展示。ビックカメラで売られている家電などがさりげなく展示されている(写真/新関雅士)
ユニクロの売り場横に置かれた、マネキン人形を使った生活シーンの展示。ビックカメラで売られている家電などがさりげなく展示されている(写真/新関雅士)
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 マネキン人形の数は開業時で約80体だったが、「今では全体の数を把握できないくらいどんどん増えている」(ビックカメラ広報)という。マネキン人形の活用にそれだけ送客効果があると、ビックロの社員に認識されているわけだ。

 この結果、「ビックロの客層はビックカメラの通常のリアル店舗と客層が全く異なる」(松浦氏)。通常のリアル店ではほぼ、男性客の割合が女性客を大きく上回るのに、ビックロに限っては「男女半々か女性の割合が多いくらい」(松浦氏)。おかげで、冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった白物の大型家電だけでなくドライヤーなどの美容家電がよく売れる。ビックカメラの他店と比べて、「コロナ禍で一時的に落ち込みはしたし、具体的な数字も示せないが、開業以来、売り上げは大きく伸び続けている」(松浦氏)という。

唯一無二のプレミアム店と位置づける

 ビックロが成功した理由を、松浦氏はあと2つ上げる。

 1つは、「唯一のプレミアム店と位置づけ、この業態を他に広げていないこと」(松浦氏)。異業種の店を複合させてユーザーを相互送客する試みが成功したのだから、ビックロという業態をさらに広げればいいと考えがちだが、ビックカメラもユニクロもそうは考えなかった。新宿東口にあるビックロを唯一のプレミアム店と位置づけ、ユーザーにアピールして集客したほうが効果的と考えたのだ。

 例えば、ビックロではビックカメラが付与するビックポイント1500ポイントをユニクロの1000円相当のクーポンに引き換えられるが、このクーポンが使えるのはビックロ内のユニクロだけ。ビックロだけのサービスを提供することで、ユーザーのプレミアム感を引き上げる作戦だ。

店内に掲示された、ビックロ店内のユニクロのみで使えるクーポン券のお知らせ(写真/新関雅士)
店内に掲示された、ビックロ店内のユニクロのみで使えるクーポン券のお知らせ(写真/新関雅士)
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 その代わり、ビックロで学んだことの一部は、他の店に展開する。例えばビックカメラは、店内の通路スペースを広く取ったり、棚の陳列に余裕を持たせたりしたほうが女性客には好評で売り上げも伸びると学び、一部の店で参考にしているという。

データ活用より店頭での体験を重視

 もう1つは、データ活用にあえて深入りしないことだ。アマゾンではユーザーの購買履歴に基づいてデータを分析し、そのユーザーが買いそうな他の商品をレコメンドするのは当たり前。しかしビックカメラでは、「データを分析するという視点はあまりない」(松浦氏)。会員カードや会員アプリにユーザー登録してもらい、購買履歴を把握してポイントを付与するものの、アマゾンのようなレコメンドにはあまり重きを置いていないのだ。

 ポイントはあくまでユーザーの再来店を促すツールであり、把握している購買履歴はユーザーの利便性向上にまず活用する。例えば、ある家電の付属品を買いたいユーザーが来店したものの、自分の所有する家電の商品名や型番を覚えていなかった場合、このユーザーが登録会員であれば、過去の購買履歴を店頭で検索して商品を特定し、正しい付属品を買ってもらえるというわけだ。

 データ活用よりもビックカメラが優先するのは、店頭でのワクワク感をどう実現するか。ビックロでも、ビックロの店内にあるごちゃごちゃ感を来店したユーザーに伝え、購買意欲を刺激することを最優先に考えた。前述したマネキン人形の活用による相互送客の取り組みなどは、ここから出てきた施策なのだ。

 ものとともに消費する時間を演出して、体験として届けるスナックミー。異業種が複合したリアル店を、他にはない体験の場として提供するビックロ。ともにアマゾンにはなかなかまねできない取り組みといえるだろう。第5回では、アマゾンのサイトに到達する前にユーザーを奪うという取り組みを紹介する。

(この記事は、日経クロストレンドで7月28日に配信した記事を基に構成しました)

※この記事を含む特集「打倒アマゾンの戦い方」は日経クロストレンドに掲載されています。

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