「アマゾンと正面から戦っても絶対にかなわない。だから菓子を売るのではなく、違う軸に立って、おやつを食べる『おやつ時間』という体験を提供している」と語るのは、おやつのサブスクリプション(定額課金)サービスを提供するスナックミー(東京・中央)の服部慎太郎社長だ。
スナックミーは2週間あるいは4週間に1度、1箱1980円(税・送料込み)で自分好みのおやつが届くサブスクサービスだ。高さ2.5センチ、A4サイズの箱に8種類の菓子が入りポスト投函(とうかん)される。
菓子は累計170以上の生産者やメーカーと「ナチュラルでおいしい」をテーマに、人工添加物や白砂糖、食用油脂のショートニングなどを使わずに開発したものだ。
ユーザーが「おやつ診断」で食の好み、生活習慣、アレルギーの有無などを入力すると、AIが100種類の中から選んだ菓子が届く(8品のうち一部はリクエスト可能)。そして菓子を食べたあとに評価をフィードバックすれば、さらに自分好みのおやつが送られて来る仕組みだ。
ユーザーの95%は20代後半から40代の女性。2016年2月のサービス開始以来、登録してくれたユーザーの数は月平均5%ずつ伸びているという。だが18年末、ユーザー数が停滞していた時期がある。この試練が“アマゾンとは別の軸”の構築につながった。
インスタ映えする“紙”も用意しおやつ時間を演出
DeNAやボストンコンサルティングを経て、「Webで新規サービスを始めたい」「自分の子供にも食べさせられる安心・安全な菓子を作りたい」という2つの理由から起業した服部氏。まずは、自然食品のマルシェなどで購入した菓子の食品表示ラベルを見て、製造元に協力依頼するところから事業を開始した。
当初の価格設定は、コンビニで販売されている菓子を意識した。ポスト投函できる箱に可能な限り菓子を詰め込み、1箱1700円前後。割安には違いなかった。だが、やがてユーザー数が伸び悩む。どんなに思いと手間をかけて良い菓子を作っても、ただ「モノ」を売るだけでは、企業規模の大きな会社に勝つことはできないと実感したという。
そこで自社の存在理由を再定義し、ミッションに据えたのが「おやつ体験」の提供だ。「おやつの語源は時刻を指す八つ時(やつどき)。江戸時代、現在の午後2時から午後3時頃に間食をとる習慣があった。そこで、豊かなおやつ時間を届けるサービスへと方向性を変えた」(服部氏)。
具体的には、感動と楽しさを感じられる体験だ。
まず、基本的におやつの内容をユーザーに明らかにせず、サプライズが生じるようにした。ユーザーはWebのマイページを見れば前日には把握できるが、マイページ上で「確認する」を選択してクリックしなければ見られない。「ユーザーは何が届くかをワクワクしながら待つのが楽しみ」と服部氏は強調する。
また、気に入った菓子は大きめサイズで別途注文できるが、商品が届くまでに時間を要する場合は、「メールで菓子の製造工程を伝えるなどして、時間がかかる理由を伝えている」という。これも到着までの期間を楽しみに変える気遣いだ。
おやつは、毎月デザインの異なる箱に入って届ける。どんな絵柄で届くのか分からないこともユーザーの期待を膨らませる。箱を開けた後には「食べながら楽しめる」数々の工夫がある。例えば箱の裏面。すごろくとサイコロを印字するなどして、遊んだり学んだりできるようにした。
箱に入っているのは食べきりサイズのパックに入った8種類の菓子だ。実はそれだけではない。食べる前のユーザーのお楽しみであり、スナックミーも宣伝効果を得られているのが、“インスタ映え用の紙”だ。
この紙の上に菓子の入った小箱を載せると簡単に「インスタ映え」する写真を撮ることができる。宣伝広告費が限られる中、SNSでの口コミ拡散はユーザー増に欠かせないアイテム。紙を一枚入れることでInstagramでの口コミ投稿が増えたり、Twitter上でも「この菓子がおいしかった」「次はこれを頼んでみよう」といったユーザー同士の会話が生まれたりしている。
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