UGCをサイトに載せただけでは効果なし

 ただ、サイトにUGCを載せただけで成果につながるほど甘くはない。UGC活用当初、ヤッホーが月の生活のサイト上に載せたのは、自宅に箱が届き、開封したばかりのビールを並べた様子を撮影した、いわゆる「開封の儀」と呼ばれる写真が中心だった。だが、「購買に結び付いている実感がなかった」と桂馬氏は語る。というのも、Letroを通じて、これらのUGCを表示している場合としていない場合とで比較してみたところ、CVR(コンバージョン率)に差が見られなかったからだ。「数字が変わっていないということは消費者に刺さっていないと判断。より刺さるパターンを見つけていこうと改善に乗り出した」(桂馬氏)と振り返る。

UGC活用当初、自宅に箱が届き、開封したばかりのビールなどを並べた様子を撮影した、いわゆる「開封の儀」と呼ばれる写真(上)を中心に掲載したものの、購買への影響はほとんどなかった。そのため、投稿者のライフスタイルが伝わってくる写真(下)を中心に掲載するようにした
UGC活用当初、自宅に箱が届き、開封したばかりのビールなどを並べた様子を撮影した、いわゆる「開封の儀」と呼ばれる写真(上)を中心に掲載したものの、購買への影響はほとんどなかった。そのため、投稿者のライフスタイルが伝わってくる写真(下)を中心に掲載するようにした
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 定期宅配のような、既にブランド認知がある顧客を対象としたマーケティングにUGCを活用する場合、事情は少し異なってくる。「定期宅配では毎月ヤッホーの製品が届く。そうしたサービスの性質上、月の生活の販売ページに訪問する消費者の多くは、ヤッホーのビールなどをある程度飲んだことがあって、既に好意的な印象を持っている人が多いと推測できる」(桂馬氏)。定期購入を検討するほどの消費者には、既に認知しているビールなどの製品がうずたかく積まれた写真だけでは訴求できないと考えたわけだ。「(複数の写真の効果を比較する)ABテストを繰り返していくうちに、なんでもいいからUGCを載せればいいというわけではないと気付いた」(桂馬氏)

 そこから導き出したアプローチが、ライフスタイルが伝わるUGCの表示だ。「ヤッホーの製品を定期的に飲みたい消費者は、ただ届いたというワクワク感よりも、届いた先にどのような魅力的な生活が待っているのかということを知りたいのではないかと考えた」(桂馬氏)。そこで、凝った料理が一緒に写り込んでいて、豪華な晩酌といったイメージを与える写真や、ヤッホーの製品をおともに趣味の時間を楽しんでいる写真を中心に表示するようにした。松成氏は「ヤッホーの製品はちょっとリッチな毎日を過ごしたい、自分のご褒美にしたいという人が多いのではないかと思う。『数あるビールが並んでいる中から選ぼう』という気持ちを刺激してあげるようなUGCを選んだ」と解説する。

 そうしたライフスタイルを伝えるUGCの創出を後押しするのが、投稿型キャンペーンだ。特定のテーマを基に商品を使った写真をInstagramに投稿してもらい、その中から抽選で商品をプレゼントするキャンペーンを定期的に開催している。キャンペーンを実施する上では、例えば「#本に合うビール」キャンペーンなど、ブランドの世界観に合うテーマを設定するのがポイントだ。「本に合うビールなら、『本好きのためのビールなんだ』というように、手に取ってくれた人が自分のためのビールなんだと思ってもらえるようなメッセージングをしている」と大友氏は説明する。

 そのほか、水曜日のネコという商品にちなんで「#ネコに乾杯」といったテーマの投稿キャンペーンを実施し、消費者の飼い猫と一緒に製品が写っている写真を募った。テーマを決める上では、消費者の趣味が見えてくるものを心掛けたわけだ。

「#本に合うビール」など、ブランドの世界観に合うテーマを設定した投稿キャンペーンを実施して、UGCを創出する
「#本に合うビール」など、ブランドの世界観に合うテーマを設定した投稿キャンペーンを実施して、UGCを創出する
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 月の生活のWebサイトに載せるUGCも、こうして集まったヤッホーの製品があるライフスタイルが伝わる写真へと切り替えていった。サイトに掲載する写真を選定する際に重視するのは、消費者が実際にヤッホーの製品を楽しんでいるシーンや、他の消費者にとって「こんな生活をしてみたい」というイメージが伝わるかどうかだ。その結果、UGC経由のCVRは、20年10月と21年4月で比較して16%高まった。

 UGCは単に増やして、自社サイトに載せればいいというわけではない。商品やサービスがあるライフスタイルが伝わる写真など、顧客の消費心理にマッチしたUGCでなければ真価は発揮できない。そのためにも、目的に合った写真が投稿されやすいように企業が働きかけることも重要であることが、よく分かる好例と言えそうだ。

(写真提供/ヤッホーブルーイング、アライドアーキテクツ)

『18年連続増収を導いた ヤッホーとファンたちとの全仕事』
『18年連続増収を導いた ヤッホーとファンたちとの全仕事』(2021年7月5日発行、日経BP、税込み1760円)
『18年連続増収を導いた ヤッホーとファンたちとの全仕事』(2021年7月5日発行、日経BP、税込み1760円)
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 軽井沢町に本社を構える1997年創業の老舗クラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイングが、希有なマーケティング手法で売り上げを2021年現在まで18年間連続で伸ばし続けています。秘密は、顧客を自社および自社製品のファンと捉え、きめ細やかで、しかも温かみのあるコミュニケーションをとにかく大切にしていること。本著は、そんなヤッホーとそのファンたちとの関係をマーケティング視点でひもときます 。顧客との関係性に悩む企業マーケターが次の一手を考えるうえでのヒントが見つかるはずです。

(この記事は、日経クロストレンドで7月2日に配信した記事を基に構成しました)

※この記事を含む特集「UGC 客が客を呼ぶサイクル」は日経クロストレンドに掲載されています。

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