家庭で文具として使うのりの定番が、ヤマト(東京・中央)のロングセラー液状のり「アラビックヤマト」。鮮やかなオレンジ色のキャップでおなじみだ。キャップを外すと先端にスポンジが付いており、手を汚さず、ムダやムラがなく塗れる点が長年愛されてきた。この容器をそのまま蜂蜜のパッケージとして使ってしまったのが、「はちみつアラビックリ!?ヤマト」だ。

一見するとのりのようだが、実は中身は蜂蜜という「はちみつアラビックリ!?ヤマト」。カナダ産蜂蜜70グラム入りで価格は864円(税込み)
一見するとのりのようだが、実は中身は蜂蜜という「はちみつアラビックリ!?ヤマト」。カナダ産蜂蜜70グラム入りで価格は864円(税込み)

 雑貨などの企画・製造・販売を手掛けるヘソプロダクション(大阪市)が2020年5月13日に発売した。容器はアラビックヤマトそのままだが、ラベルのフォントの色がオレンジではなく、蜂蜜を思わせる黄色になっていて、六角形を並べた蜂の巣柄のあるクリアケースに入れることで、中身がのりではなく蜂蜜であることを主張している。

 ヤマトとの正規ライセンス契約に基づいて企画製造したものだが、「なるべく本物に寄せたいこちらの意向と、混同されるのを嫌う先方の意向のせめぎ合いの結果、本物ののりにはないクリアケースに入れて販売するという着地点に落ち着いた。その分コストがかさみ、あまりもうからない商品になってしまった」とヘソプロダクション代表取締役の稲本実氏は苦笑する。

安全性確認に万全を期す

 一見すると、のりの容器に蜂蜜が入っているという意外性と、見た目の面白さを狙った商品にも思えるが、「実際には実用性の高さがこの商品の大きなポイントだ」と稲本氏は言う。「液状のりを長年開発してきた企業が使い続けている容器だけに、完成度が高い。密封性が高く、手を汚さず塗ることができ、塗り心地もいい。これに蜂蜜を入れて問題がなければ、スプーンを使う必要もなく、蜂蜜としても使いやすい商品になると考えた」と稲本氏は説明する。「見た目が面白いとか、ビジュアルだけでは商品は売れない」(稲本氏)。この容器を使用したのは実用性を重視した結果だというのだ。

ココが技ありポイント!

液状のりの容器に蜂蜜。
塗りやすさもそのままに

 もともと食品用ではない容器に蜂蜜を入れるわけだから、安全性の確認には万全を期した。本体やキャップ、スポンジなど、すべてのパーツを専門機関に提出して検査や分析を依頼した。どのような素材が使われていて、使用した場合有害な物質が溶け出したりしないかなどをテストしてもらい、数値のうえでも安全性を確認した。

 安全性に問題はなく、商品化できると分かり、ヤマトから容器の提供を受け、蜂蜜も調達できた。だが、次の難関が待ち受けていた。過去に例のないことだけに、この容器に蜂蜜を充填してくれる工場がなかなか見つからない。「最終的な充填は人による手作業になるし、衛生的な処理も必要になる。それが1カ所で可能で、コストなどの条件も折り合う工場を、何社もの折衝の末にようやく見つけ、商品化にこぎ着けた」(稲本氏)。企画スタートから発売まで約1年を要したという。

本物の液状のり「アラビックヤマト」と同じ容器を使用しているのでパンにも塗りやすく、容器を押せばたくさん搾り出すこともできる。しかし、食品容器として使うので、洗浄処理、衛生チェックをした後に蜂蜜を入れている。そのため同社では、市販ののりが入っていた容器を自宅で洗って蜂蜜を入れて使用しないよう呼びかけている
本物の液状のり「アラビックヤマト」と同じ容器を使用しているのでパンにも塗りやすく、容器を押せばたくさん搾り出すこともできる。しかし、食品容器として使うので、洗浄処理、衛生チェックをした後に蜂蜜を入れている。そのため同社では、市販ののりが入っていた容器を自宅で洗って蜂蜜を入れて使用しないよう呼びかけている
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 「僕は子供の頃から、アラビックヤマトを見て“蜂蜜みたいでおいしそう”とか“なめてみたい”という思い出があり、今回の企画につながった。発売してみると『ホンマ実現してくれたやつがおるんや』みたいな共感の声がずいぶん寄せられた」(稲本氏)

文具業界と一緒にもう一度成長を

 同社ではこのほかにも、「フエキ糊(のり)」の不易糊工業(大阪府八尾市)や「マジックインキ」で知られる寺西化学工業(大阪市)など、文具メーカーとのコラボレーション商品を数多く手掛けている。その背景には「文具業界を盛り上げたいという強い思いがある」(稲本氏)。

 「少子化の影響で文具市場が縮小する一方、文具業界は老舗企業が多く、なかなか変革できない。いろいろな挑戦をしたいけれども、自分たちだけでリスクを取れないというジレンマを抱えている」と稲本氏は指摘する。ヘソプロダクションとコラボすることによって、ユーモアのある、話題性の高い商品を世に送り出すことでニュースになったり、“そうそう、懐かしいよね”と改めて思い出して手に取ってもらったりするきっかけをつくれれば、互いにプラスになるというのだ。「日本の文具は世界的にも優れていると思うし、まだまだ可能性がある。文具メーカーと共にチャレンジすることでその可能性を見つけ、もう一度一緒に成長したい」(稲本氏)

(写真提供/ヘソプロダクション)

(この記事は、日経クロストレンドで6月21日に配信した記事を基に構成しました)

※この記事を含む特集「お客をつかむ“技ありパッケージ”」は日経クロストレンドに掲載されています。

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