課題は顧客情報のリンク
だが、デジタルシフトの狙いは店頭の従業員削減ではない。あくまでも顧客の選択肢を増やすのが目的だ。これまで通り来店をする人がいる一方で、感染拡大を懸念して来店を控えたい人もいる。オンライン接客やECなど来店以外の選択肢が増えるのは便利に映るだろう。
ポータルサイトを数年かけて整備したのに対し、オンライン接客は構想から実行までわずか1カ月というスピードで実現できた。これについて升森氏は、「コロナ禍という特殊な状況で、LINEやZoomなど既存のツールを使ってでも速やかに始めようという声が大きかった。『三越伊勢丹独自のチャットやビデオ通話システムを開発してから』という流れであれば、あと数年はかかったかもしれない」と振り返る。コロナ禍は小売店に多大なダメージをもたらした。だが、その一方で、「新しい売り方」に挑戦する起爆剤にもなったといえるだろう。
課題も残る。オンライン接客の入り口であるチャットにはLINEを使っており、相談者の氏名や年齢などの個人情報を店舗側が把握できていない。Zoomでの接客もまた同じだ。これらのオンライン接客を経由してECでの購買に至った場合、接客時の定性情報と顧客の個人情報をひもづけるのが難しくなる。
ランドセルなど取扱商品を限定しているうちはいいが、他の売り場や系列店でもオンライン接客を始めれば、顧客の数は一気に増える。その前にポータルサイトとオンライン接客をつなぐなどして、顧客情報の取り扱いを見直す必要があるだろう。
また、オンライン接客によって、販売員に求められるスキルも変化していくだろう。商品への専門知識に加えて、チャットなどの文字情報から顧客のニーズを読み取ったり、ビデオ通話の限られた時間で気持ちに寄り添って購入を後押ししたりする必要があるからだ。だが、それができて初めて、オンライン接客がリアル店舗とECの間を埋める存在になり得るのではないだろうか。
(写真提供/三越伊勢丹)
※この記事を含む特集「 withコロナ リアル店舗の大変革」は日経クロストレンドに掲載されています。
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