Zoomでの成約率は約5割
Zoomでの応対時は、顧客のイメージが湧きやすいように子供サイズのマネキンを用意して、背負わせてみるなどの工夫をしている。また、画面によっては色が実物と異なって見えることがあるため、オンライン接客専用の部屋を用意し、ライティングを調整して色むらが出ないようにした。
対応するのはランドセルに精通した専門スタッフで、オンラインでもリアル店舗で接客するときと大きな違いは感じなかったというが、苦労したのは「重さの伝え方」。背負ったり手に取ったりすれば簡単に解決する問題だが、「1100グラムと聞いても、想像できない人がほとんどなので、『牛乳1リットルとほぼ同じ重さ』などと身近なものに置き換えて説明するようにした」(杉澤氏)。
Zoomで接客したうえで、さらに現物を見てみたいという人には、来店の事前予約サービスを提案する。実はこのオンライン接客のもう一つの目的が、営業再開後の売り場の混雑緩和だった。顧客のためにも、売り場が過密になることは避けたい。さらに、感染を懸念して来店をためらう人にも安心して購入してもらいたい。
そこで、最終的に事前予約サービスを使ってもらい、広い個室を用意して、最大5組を受け入れるようにスケジュールを組むことにした。だが、「来店まで至る人は少なく、Zoomで接客した顧客の約半数がその段階で成約している。かなりの手応えを感じている」と杉澤氏は話す。
オンライン接客を通して分かったのは、「誰かに背中を押してほしい」という顧客が多いことだった。ECが世の中に広く浸透し、商品の比較検討もオンラインで難なくできるという人も少なくない。だが、ランドセルのような高額商品、ましてや自分ではなく子供が使うというものは、決済前に本当にこの商品でいいのかためらうこともある。「購入前にプロの情報が欲しい、後押しをしてほしいという人は少なくない。ECだけでは決められないという人にとって、オンライン接客は有効だった」と杉澤氏は感じている。
では、「最後の一押し」さえできれば、どんな商品でもZoomで売れるのだろうか。
筆者は以前、“極上タオル”で知られるIKEUCHI ORGANIC(イケウチオーガニック、愛媛県今治市)のオンライン接客を体験したが、色味やスペックを見るだけならECサイトの情報で事足りた。
だが、同社のフェイスタオルは1枚3000円前後とタオルにしては高額で、失敗はなるべく避けたいという思いがあった。そのため、商品に精通した従業員のお墨付きをもらえたことが、最終的に購入の大きな一押しになった。
しかし、安価な商品や使い切りの商品に関しては、ECで失敗しても受け入れられる人も多いのではないか。もっと踏み込んで言えば、「安いものを買うために、わざわざ時間を割いてまでオンラインで接客をされたくはない」というのが多くの消費者の本音だろう。
オンライン接客で売れるかどうかは恐らく従業員の日ごろのコミュニケーション能力によるところが大きく、オンラインもリアルでも変わらない。だが、あえてZoomで接客する意味がある商品かどうか、企業側はそこを見極める必要がある。
ランドセル商戦もやがて落ち着いてくるが、杉澤氏は「ベビーカー、出産用品など、長期間使えて高額な商品にも応用できるのではないか」と期待を寄せている。
3カ年計画でデジタルシフトを推進
ベビー・子供関連の売り場以外に、このオンライン接客を活用しようとする動きはないのか。三越伊勢丹MD統括部デジタル推進グループ シームレス推進部の升森一宏部長は「他の部門からもやりたいという声は上がっている」と話す。
「オンライン接客の仕組みはシンプルなので、多部署に広げることは可能。だが、これに適した商材かどうかの見極めが重要になる。百貨店の専門性を生かせるうえに、買う側も価格だけでは決定しないギフト商品などが向いていると思う」(升森氏)
実は、ランドセルのオンライン接客に踏み切るのとほぼ同じタイミングで、三越伊勢丹は公式ポータルサイトとアプリの大幅なリニューアルを実施した。これまではイベント情報などを載せた各店舗のサイトとECサイトがそれぞれ独立していたが、それを1つのサイトに統合した。
さらに、ポータルサイトと同じ体裁で見られるよう、中身をミラーリングして「三越伊勢丹アプリ」として20年6月9日にローンチした。「中身は同じだが、アプリには店頭でのサービスやイベントの予約など、アプリ限定の特典を持たせている」(三越伊勢丹広報)。ランドセルのオンライン接客を申し込むのも、このアプリを使ってもらう。
同社は19年度からの中期経営計画(3カ年計画)でデジタルシフトを図ってきた。19年2月に立ち上げた化粧品オンラインサイト「meeco(ミーコ)」や、20年春にスタートしたオンラインパーソナルスタイリング「DROBE(ドローブ)」もその一環だ。そこに加えて、ポータルサイトの整備を行い、ECの取扱商品の拡充や、季節や催事に合わせた特集記事などに力を入れた。
サイトに関わるのは全て自社の社員。19年にデジタル専門の部署を新規に立ち上げ、社内公募を中心に約120人を配置した。特集記事の執筆や商品撮影も、全て社員が行う。「デジタルに力を入れていくに従って、店頭に立つ従業員が減ることを想定した」(升森氏)
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