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 日本電産を28歳で創業し、今や1兆5000億円超の売上高(2020年3月期)を誇る世界一の総合モーターメーカーに成長させた会長兼CEO(最高経営責任者)の永守重信氏。そのカリスマ経営者が今、本気で取り組んでいるのが大学改革だ。

 改革の舞台は、京都市内に本部を置く「京都先端科学大学」。19年3月までは京都学園大学という名称で、偏差値、人気共に低迷していた。そんな中、永守氏は130億円以上の私財を投じたうえ、理事長として改革を断行。大学組織にはプロ人材が集まり、教員にも世界各国から実力のある研究者が集結。さらには、入学希望者が増加するなど、変貌を遂げつつある。

 なぜ永守氏は大学改革に乗り出したのか、そして、どのような人材を育てようとしているのか――。同大学の改革を追った注目の新刊と日経クロストレンドの連載の中から、永守氏の肝煎りで新設した工学部に注目してひもといていく。

永守重信氏。日本電産会長兼CEO。1944年京都府生まれ。2018年3月、学校法人京都学園理事長に就任。19年4月から法人名変更に伴い、学校法人永守学園理事長を務める

 20年4月、京都市にある京都先端科学大学・京都太秦キャンパスで、新設の工学部がついにスタートした。同大学を運営する学校法人永守学園の理事長で、日本電産会長兼CEOの永守重信氏が130億円を超える私財を投じた大学改革の本丸、工学部の幕が切って落とされた。

 そもそも永守氏が大学経営に乗り出したきっかけは、現状の大学教育に関して疑問を持ったからだ。

 「大学は今まで、企業や社会のことを考えずに人を送り出してきた。私たち会社は、売れるものを開発しなかったら成り立たない。お客さんのことを一生懸命考えてつくるのが当たり前。大学も同じであるべきだ」(永守氏)。日本電産にとって、モータについて学んだ学生が必要となるが、日本の大学でモータの先端技術を専門的に学べる学部学科は、今や絶滅の危機にある。「モータを学んだ人は、500人採用したとしても1人か2人いるかどうか。そこで結局、社内に『モータカレッジ』を設立し、入社後に半年から1年かけて、一から教えている。それでは世界と戦えない」。業を煮やした永守氏が、大学をつくることを構想に入れるのは必然だった。

 さらに永守氏が、根本的で致命的な問題として挙げるのが、偏差値教育の弊害だ。

 「一生懸命に座学をして、勉強漬けになって、塾で受験テクニックをたたき込まれて……。それでいい大学に入ったからといって、企業で戦力になるわけではない」と、永守氏は語る。

 さらにもう一つ、永守氏は有名大学信仰、まん延するブランド主義の問題を指摘する。「今の学校や塾の進路指導を見ると、とりあえず有名大学のバッジを付けろといまだにやっている。例えば、学生が『有名大学の工学部に行きたい!』と言ったときに、教師が君の偏差値では受からないから同じ大学の農学部を受けたらどうかと促す。そして学生も妥協する。やりたいことよりもブランドを第一に考える。これが日本の大学教育を歪ませている」(永守氏)。指導者だけではなく、親、採用する企業側も同じマインドに染まっていると、永守氏は警鐘を鳴らす。

 そこで永守氏は、京都先端科学大学を改革し、新しい人材育成の形を示そうとしている。その象徴ともいえるのが、新鋭工学部だ。以降は、永守氏が考える真の人材育成とは何か、改革の“本殿”である工学部の全貌を解き明かしながら迫っていく。

150年間続いてきた工学教育をぶっ壊す

 20年4月に新設された工学部は「機械電気システム工学科」の単科学部。電気自動車、ロボット、ドローンなど未来の産業に欠かせない技術領域を視野に、工学の基礎やモータ技術などを学ぶ。

 新規に建てられた工学部の入る南館には、最新鋭の3Dプリンターやレーザー加工機などが導入された機械工房を設置。24時間365日利用できる図書館に加え、キャンパスの随所にグループワークに適した共用スペース「ラーニングコモンズ」を備える。

 キャンパスや設備の充実度もさることながら、驚くのはその“中身”だ。元・京都大学大学院工学研究科教授であり、工学部長に就任した田畑修氏を中心に、全く新しい学びの仕組みをつくり出した。まさに、人材教育・育成の実験場ともいえる。

京都太秦キャンパス南館(工学部棟)1階の機械工房には、専門スタッフを配置。講義室に加え、少人数でのグループワークがしやすい「ラーニングコモンズ」なども各階に用意している。南館には、国際学生寮も併設され、国内学生と留学生が生活をする
新設工学部の学部長を務めるのが、田畑修氏。トヨタ関連企業で研究に従事していた際に、社会人博士号を取得。その後、私立大学を経て、16年間にわたり京都大学で教壇に立つ。今回の工学部の設立に当たって、早期退職を決意