欧米企業はもとより、日本でも有力企業が次々に「パーパス(存在意義)」を発表している。社会や人々の価値観が揺れ動く中でパーパスを見直すことは、社内外の共感と信頼を獲得するために欠かせなくなっているからだ。
ところが「そもそもパーパスとは何か」、「どのように決めるのか」はいまひとつ理解しにくい。パーパスに根ざした施策をどのように進めればよいのか悩む方も少なくないだろう。
日経ビジネスLIVEは8月23日、日経クロストレンドと共同で「『クイックル』と『午後の紅茶』の人気はなぜ続く? 花王とキリンビバレッジのブランド責任者に学ぶ『パーパス』」と題したウェビナーを開催した。企業のブランド戦略を支援するSMO(エスエムオー)代表取締役の齊藤三希子氏をモデレーターに、花王ホームケア事業部ブランドマネジャーの佐鳥翼氏と、キリンビバレッジマーケティング部ブランド担当主査シニアブランドマネージャーの加藤麻里子氏が、パーパスブランディングの事例やポイントを解説した。収録したアーカイブ動画とともにお伝えする。
(構成:清水美奈、アーカイブ動画は最終ページにあります)

SMO代表取締役・齊藤三希子氏(以下、齊藤氏):本日は「パーパス基軸のブランド戦略」について、花王ホームケア事業部の佐鳥翼さんと、キリンビバレッジマーケティング部の加藤麻里子さんにご講演いただきます。はじめに、それぞれ自己紹介をお願いいたします。
花王 ホームケア事業部・佐鳥翼氏(以下、佐鳥氏):私は花王に入社以来、一貫してマーケティングに従事しています。これまで経験した領域は、ヘルスケア、飲料、男性用化粧品と多岐にわたります。現在は、ホームケア事業部に所属し、掃除ブランドの「クイックル」や「マジックリン」を担当しています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
キリンビバレッジ マーケティング部・加藤麻里子氏(以下、加藤氏):皆様、初めまして。私は大学卒業後に外資系の食品メーカー2社で営業やマーケティングに携わりました。その後、2018年にキリンへ入社して「午後の紅茶」のブランドマネージャーを務めています。本日はよろしくお願いします。
齊藤氏:私はブランド戦略を支援する立場から10年ほどパーパスブランディングに携わっています。なじみのない方のために、これから簡単にパーパスについて説明します。パーパスを辞書で引くと「目的」とか「狙い」という訳が出てきますが、ビジネスにおいては「存在意義」の意味で使われます。辞書には載っていないのですが、SMOでは「大義」や「志」といった意味合いも含んでいると考えています。

米サウスウエスト航空はパーパスについてこうコメントしています。「パーパスは、私たちはなぜ存在するのかを最もシンプルかつ純粋に表現したものだ」。この2つがパーパスを理解するキーワードになります。
パーパスと近しいものに、ミッション、ビジョン、バリューズといった理念があります。それぞれの関係性から整理すると、パーパスは現在に焦点があり「何のために存在するのか」を端的に表すものです。一方、ビジョンは「成し遂げたい世界」や「こうありたい」といった未来にベクトルがあります。そして、パーパスやビジョンの実現に向け果たすべきことがミッションであり、ブランドの大切な価値観や信条を表すのがバリューズです。
例えば米ナイキや米P&G、米パタゴニアはパーパスブランディングの先駆者として知られています。彼らに共通するのは、環境問題や社会問題のレンズを通して自らの存在意義を問い直し行動を起こすことで、生活者から共感を得ている点です。その結果、厳しい市場環境でもブランドの強さを保ち成長を実現しています。
これが今、パーパスブランディングに焦点が当たっている背景なのだと思います。将来の不確実性が高まる中、この瞬間の「よりどころ」となるパーパスを軸に判断・行動をしたいという意識が高まっていることが、今の時代に受け入れられている理由だと捉えています。
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