フルーツトマトを生産、販売する曽我農園(新潟市)が、野菜の表面の皮の一部が黒く変色する生理障害「尻腐れ」が発生したトマトを「闇落ちとまと」と名付けて販売したところ、大人気となった。
2021年5月、Twitterに闇落ちとまとの紹介を投稿。すると、その日のうちに爆発的に投稿が拡散したのだ。問い合わせが殺到し、テレビや新聞、Webメディアなどが相次いで取り上げたことで、知名度が一気に高まったという。
尻腐れは、甘いフルーツトマトを生産する過程で一定数出てしまう。が、見た目が悪いだけで甘みは凝縮されている。投稿では、尻腐れしたトマトの見た目の「怖さ」を踏まえながらも、「並外れた資質を持ちながら暗黒面に落ちた」という人気映画「スター・ウォーズ」の主要な登場人物「アナキン・スカイウォーカー」の境遇に重ねて説明した着眼点もよかった。
コロナ禍を機にリブランディング
曽我農園が本格的にTwitterを始めたのはコロナ禍がきっかけ。曽我農園社長の曽我新一氏は、「Twitterでは、農業は未知の世界。(ユーザーにとって)非常に新鮮な情報として映ることが、この1年を通じて分かった」と話す。現在、闇落ちとまとの最初の投稿はリツイート数が8万回を超え、曽我農園のアカウントのフォロワーは1万7000人を超えている。
SNSで話題になっただけではなく、ジュースやケチャップも含めた関連商品の購入にも直結した(闇落ちとまとは、曽我農園直売所のみで期間限定発売)。例年5月は全体で約1000万円の売り上げだが、同月で比較すると20年は約600万円、21年は約1200万円と推移し、V字回復を遂げた。同社では、Twitterや曽我氏の妻が運営するInstagramを使った宣伝・PRと並行して、20年4月の1度目の緊急事態宣言を機に、リブランディングに取り組んだ。自社ECサイトを1年後の21年4月にリニューアルし、 新潟県内のスーパーマーケットや直売所を中心としたトマトの販売体制を見直した。日本政策金融公庫からの借り入れをリブランディングの費用に充て、約3年で返済できるめどが立っている。
ECサイトの構築には、にいがた産業創造機構(NICO)を通じて新潟にゆかりのあるクリエーターが参加した。クリエーティブディレクターの堅田佳一氏、デザイナーの石川竜太氏(フレーム、新潟市)などが参加するデザインチームが結成され、コンサルティングを受けた。「経営とデザインを自分でやってきたが、Webで販売していくに当たって、自分一人のデザインでは駄目だと思った」(曽我氏)
Web会議や畑の見学を経て、堅田氏のディレクションにより新潟県の旧国名の「越後」と、寒さの深まる冬を越えて甘くなることを掛け合わせて「越冬トマト」というネーミングができた。闇落ちとまとは、越冬トマトの規格外品という位置づけだ。トマトジュースやケチャップに加工することでも規格外品をブランド化している。
曽我氏はリブランディング以前から情報発信に力を入れ、発行部数約40万部の「新潟日報」でコラムを連載し、書籍も出版している。さらにSNSに力を入れようと考えたのは、若年層や県外の消費者にも自社の取り組みを知ってもらうためだ。「新聞の読者層はほぼ50代以上。コロナ禍でその方たちが(直売所に)来られなくなる。昨年1年間は自分で勉強した」(曽我氏)
Twitterは、過去に使っていた個人アカウントを再活用し、まだつながっていた約1000人規模のフォロワーから始めた。闇落ちとまとの投稿の前にも定期的にバズを発生させていて、そのたびにフォロワーが増えていったという。闇落ちとまとは、Twitterのトレンド(盛り上がっている話題)として上がっていた「絶賛発売中」という言葉を乗せて仕掛けた。
堅田氏との対話を重ねて生まれたECサイトと、曽我氏自身が業務中に書きためたメモから投稿されるTwitter──2つの相乗効果で売り上げを伸ばした格好だ。「実際の売り上げへの貢献が数値として表れてきた。この基礎は、堅田さんがつくってくれた世界観と、リニューアルしたWebページ。これがなかったら売り上げは伸びていなかった」(曽我氏)
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