2022年6月、世界でも有数の展示会「ミラノサローネ国際家具見本市(ミラノサローネ)」が開催された。60周年を迎えた今年、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で開催時期を4月から延期したが、それでも1575社が出展し、173カ国から26万2608人が来場するなど、コロナ禍前の約8割にまで復活。多くの日本企業も出展していた。
好天のミラノ郊外ロー・フィエラ本会場
好天のミラノ郊外ロー・フィエラ本会場
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 開催中に実施されたメディアグループとのインタビューの席上、「若手の登竜門」といえるサローネサテリテの創設者でもあるキュレーターのマルヴァ・グリフィン・ウィルシャー氏が60周年を迎えたことに触れ、感極まって涙するシーンもあった。前回の2021年は小規模な展示会にとどまったが、規模が戻ったように感じられる。

 日本からの出展は、檜創建(岐阜県中津川市)やマルニ木工(広島市)、細尾(京都市)、カリモク家具(愛知県東浦町)、アンビエンテック(横浜市)、リッツウェル(福岡市)があった。これらの展示ブースを見てみよう。

【お知らせ】

8/26「ミラノサローネ/フォーリサロネセミナー」開催決定。詳しくはこちらをご覧ください

メディアグループとのインタビューで、「サローネサテリテ」の創設者でありキュレーターのマルヴァ・グリフィン・ウィルシャー氏は感極まり涙した
メディアグループとのインタビューで、「サローネサテリテ」の創設者でありキュレーターのマルヴァ・グリフィン・ウィルシャー氏は感極まり涙した
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セルジョ・マッタレッラ伊大統領のメッセージとともに開幕。バイヤーなど61%が国外から来場。世界中から3500人以上のジャーナリストも取材に訪れた
セルジョ・マッタレッラ伊大統領のメッセージとともに開幕。バイヤーなど61%が国外から来場。世界中から3500人以上のジャーナリストも取材に訪れた
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檜創建、設備をアートに進化させる

 檜創建は、岐阜県と長野県の県境を流れる木曽川沿いに本社がある。特産材である木曽檜(ひのき)を主に使い、地域に伝わる木工技術でつくる檜風呂のメーカーであり、浴室総合プランナーでもあるという。

 04年に2代目社長として小栗幹大氏に代わってから現代的デザイン要素が加わり、日本独自の文化ともいえそうな“檜(ひのき)と入浴”を、国内のみならず世界に向け発表し始めた。

 使用する木曽檜は、樹齢200~300年の国有林で採れたものという。「伐採制限のある貴重な木で、寒い地で少しずつ伸びるため締まっている」と小栗氏は話す。

 15年には檜風呂の「木製浴槽 MW(モダンウッド)kaku」で日本ウッドデザイン賞も受賞している。「檜風呂を伝統からデザインに、設備だったものをアートへ進化させている」(小栗氏)

 14年にミラノサローネTDWinMilanに、17年はミラノサローネジャパンデザインウイークにも出展しており、22年でミラノサローネは3回目の出展だが、今回は初の単独出展になる。16年にはWood Furniture Award パリにも出展しているが「世界で発表するならミラノ」と言う。

 「今回は新型コロナウイルス禍だからこそチャンスだと思ってミラノサローネにエントリーした」。「世界中から建築家やインテリアデザイナーが来場しており、改めてミラノサローネのすごさを実感した」と小栗氏は話す。

 今回、国内では10年に発表した川上元美氏デザインの「O-Bath」から「ne-yoku」と「O-Bath ten」の2点を出した。広くない出展ブースに2つの浴槽がシンプルに並ぶ。

 今まで不可能と思われた、檜風呂に不可欠な金属のタガを使わない製法を実現。つなぎ目などの接合部分をあまり見せないシンプルなデザインで、すっきりとした印象だ。タガ付きも個性的で和の魅力があるが、タガなしのデザインは、すっきりしており、どんなバスルームにも合い、海外でも応用が利きやすそうだ。手作りだからこそ生まれるカーブも温かな美しさがある。

 欧州人の多くは浴槽に横になってくつろぐ習慣があるため、深いが横になれない日本型の浴槽はよほどの日本好きでないと好まれないだろうが、ne-yokuは欧州人が好みそうなバスタブ型で抵抗がなく、欧州にも広がる可能性を感じさせる。檜風呂の肌触りや香りが楽しめ、バスタイムに自然に触れられるぜいたくを教えてくれそうなデザインといえる。

 展示ブースには多くの来場者が立ち寄っていた。職人とユーザーの対話も大切にしているという。日本の伝統美を独自の技術により開花させた手法は、海外の人たちも魅了したようだ。

展示ブースでは檜風呂の肌触りや香りが楽しめる
展示ブースでは檜風呂の肌触りや香りが楽しめる
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「ne-yoku」は欧州のバスタブ型
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小栗幹大氏
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(写真提供/檜創建)

マルニ木工、新デザイナーを起用

 マルニ木工は、1928年の創業以来「工芸の工業化」をモットーにする、広島市の木工家具メーカー。海外進出を目指して2008年にデザイナーの深澤直人氏を起用し、10年にはMARUNI COLLECTIONのアートディレクターとして参画。さらに世界的に有名なデザイナーであるイギリス出身のジャスパー・モリソン氏を11年から、デンマーク出身のセシリエ・マンツ氏を22年から起用している。

 ミラノサローネへの出展は今回で12回目。3年ぶりの出展になるが、前回に続きSプロジェクト(新しい空間デザインのコンセプトや革新的なソリューションを紹介するプラットフォーム)に選ばれた。この背景には過去の出展歴のみならず、米アップルの新社屋でマルニ木工のアームチェア「HIROSHIMA」が数千脚使われるなど、欧米での評価が高まっていることがあるといわれる。

 今回も深澤氏が展示ブースをデザイン。3人のデザイナーがそれぞれデザインしたテーブルと椅子が間隔を持ってゆったりと横に並び、遠くからその形の美しさが遮るものなく見られるシンプルにして効果的な空間レイアウトである。家具の周りに爽やかな空気の流れさえ感じられた。おのおののデザインは国柄も感じさせるが、すべてに共通するのは質の良い無垢(むく)材の美しさ、平滑面を仕上げる技、端正な形といえるだろう。どの国にもどの時代にも通じるシンプルさを表現したプロダクトである。

 「今回新たに加わったマンツ氏がデザインした新作は評価が高い。これまでにない色使いやマンツ氏らしい柔らかなデザインが、MARUNI COLLECTIONに新たな奥行きを与えてくれた」と社長の山中洋氏。「ミラノサローネは海外の有力ディーラーや建築家、デザインオフィスなどと出会える絶好の機会でもあり、日本への発信にもつながるので今後も継続して出展したいと思う」(山中氏)

レセプションの風景
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マンツ氏「ENダイニングテーブル・チェア」
マンツ氏「ENダイニングテーブル・チェア」
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モリソン氏「T&O ラウンドテーブル63」と「T&O T1チェア」
モリソン氏「T&O ラウンドテーブル63」と「T&O T1チェア」
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深澤直人氏「HIROSHIMAワイドアームチェア」
深澤直人氏「HIROSHIMAワイドアームチェア」
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(写真提供/マルニ木工)

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