新型コロナウイルスの感染拡大により、アパレル業界が危機に瀕している。日本ではレナウン、米国ではブルックスブラザーズと名門企業が経営破綻に追い込まれ、マルキュー(渋谷109)ブランドの代名詞「CECIL McBEE」(セシルマクビー)も全店舗閉鎖を決めた。そんな中、唯一気を吐いている企業がある。ワークマンだ。
40年前、群馬県伊勢崎市で産声を上げた作業服専門店が今、アパレルブランドとして急浮上している。コロナ禍にもかかわらず、既存店売上高は2桁成長を継続。2020年6月には前年同期比37.2%増(全店売上高は同44%増)と驚異的な伸びを刻んだ。
国内店舗数ではあの「ユニクロ」を抜き、作業服仕込みの機能性と圧倒的な低価格を武器にアパレル市場を席巻している。SNSでは「ワークマン女子」というハッシュタグが増殖。職人専門店というイメージを脱却し、ここ数年、客層が急拡大しているのだ。
「企業には歴史がある。歴史にはスタートがある。往々にして、企業の個性はどういうスタートを切ったかによって作られる」
1989年。昭和の終わりに、こんな書き出しで始まる一片の文書が編まれた。タイトルは「ワークマンものがたり」。作業服専門店として知られるワークマンが100店舗達成を記念し、この先「500店舗、1000店舗と発展して行ったときにも創業時の精神を振り返るひとつの記録」となるようにまとめたという、門外不出の社内報である。
当時から30年が過ぎた。平成が終わり、令和が幕を開けた。ワークマンの国内店舗数は500どころか、2020年5月末で869まで拡大。あのユニクロを抜き去り、1000店舗体制も視野に入った。店舗数だけではない。売上高を見ると、その急成長ぶりは抜きんでている。強烈な逆風が吹いていたにもかかわらずである。
19年10月、消費税率が8%から10%に引き上げられた。ワークマンは真っ先に「価格据え置き」を宣言し、実質値下げに動いた。既存店売上高は20年3月まで17カ月連続で前年比2桁成長を継続。20年3月期のチェーン全店売上高は1220億円と、創業以来、初めて1000億円の大台に乗った。新型コロナウイルスが列島を直撃し、アパレル企業が総崩れとなる中、ワークマンだけは順調に収益を積み上げている。なぜ、ワークマンは強いのか。それは、ファンの期待を決して裏切らない経営にある。

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