新商品を出すのは「人助け」という考え

及川 私は、化粧品の新商品は「人助け」だと思っています。化粧品は、悩める女性を必ず救えるアイテムです。ビジネスパートナーも新商品があると元気になる。B.Aには「可能性を広げる」というコンセプトがあります。人と会うことが少なくなった、Zoomで会話するだけなら化粧なんていらないのではという中で、ひるんでは駄目だ、と。スキンケアを通して、自己肯定感を高めたいんです。

 目標予算も変更しませんでした。業績が悪い中で、本社がポジティブなメッセージを発信しなければ、現場はもっと不安になる。無謀と思われるかもしれないですが、これは渾身の力作。そして、今の時代に必要とされるという自信があったんです。だから、これまで以上に、なぜこれを出さねばならないのか、という商品の「意味」をディスカッションしました。

20年9月に発売した「B.A」シリーズ。ローションは2万2000円(税込み)という高価格帯
20年9月に発売した「B.A」シリーズ。ローションは2万2000円(税込み)という高価格帯
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アートワークはフラワーアーティストの東信氏が担当
アートワークはフラワーアーティストの東信氏が担当
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――百貨店などで直接接客する機会が減っている中、どのように商品の良さを知らせましたか。

及川 タッチアップは無理でも、サンプルを渡して家でゆっくり使ってもらう方が商品の良さを実感できるかもしれない。その時に重要なのが、店頭での丁寧なコミュニケーションです。こんなときだからこそ店頭に来てくださるお客様には、以前よりも丁寧に説明しよう、と。百貨店では接客数は減りましたが、インバウンドでごった返している店内よりも話しやすいかもしれない。その機会を生かそうじゃないかというわけです。

 また、体感がしづらい時代だからこそ、「体感キャンペーン」と名付けて、3日分のサンプルを無料で送る10万人規模のサンプリングを行いました。これも、何もメッセージを出さないと「旅行の時に使おう」で終わってしまいます。B.Aを使うことで肌が変わるというメッセージをしっかりと出さなければならない。B.Aのブランドチームを、社長直下の組織とし、密にやり取りしてきました。

――「B.A ローション」は20年9月11日の発売から1カ月で約8.5万個、「B.A クレンジングクリーム」「B.A ウォッシュ」「B.A ミルク」「B.A クリーム」の4品は同年10月2日の発売から1週間で合わせて約4.1万個販売と好調です。

及川 おかげさまでなんとか予算も達成できました。これを実現するには、商品がいいとか、ブランドチームで作ったコンセプトがいいだけでは駄目で、社内、そしてビジネスパートナーの皆さんに商品の良さが伝わっていないといけない。チームが一つにならないと駄目なんです。

――B.Aは、及川さんが商品企画部長の頃に刷新したブランドでもあります。思い入れも強かったのでは。

及川 はい。09年に商品企画部長になった時、B.Aのブランド刷新をしているところでした。そこで私は、「こんなにいい商品なんだから、もっと知られるべきだ」「嘘みたいな数のベストコスメ賞を目指そうじゃないか」「もっと世の中に求められているコンセプトにしよう」と、当時話題になりたての「抗糖化」というキーワードを前面に出す戦略に変えました。“ガラガラガッシャン”状態です。もちろん、この商品には色々ないい点があるんですが、あれこれ言っても、商品の良さというのが川上から川下に伝わらないんです。

 ポーラの特徴は、ポーラと委託販売契約を結んだ個人事業主であるビューティディレクターが、お客様に販売することです。販売員がすべて社員だったら、「こう語ってください」で伝わるかもしれませんが、そうじゃないんです。ビューティディレクターは、商品が売れないと収入にならないから、本社がこう語ってほしいというメッセージに納得がいかないと実践してくれません。

 だからまず、ビューティーディレクターの皆さん、そして彼らと接する社員たちとは、同じ方向を向くための研修をしっかりします。頑張りにはどう報いるべきかも考えます。単なる売り上げではなくて、再来顧客数も評価に入れるなど、工夫が必要です。

――及川さんは、キャリアのスタートが販売の現場です。その後本社に戻り、宣伝、商品企画と様々な部署を経験していることは、その「現場重視」ともいえる方針に影響していますか。

及川 そうなんです。やはり私が真っ先に考えるのは、20年間身を置いた販売の現場のことです。本社から納得のいかないメッセージの商品が出てくると、売り場にかなり無理がかかってくるのを肌で感じてきました。当時は生意気でしたね。本社がどんな商品を出しても売ってやる、と、敵のように思っていることもありました。

 埼玉で200人のショップオーナーと1000人のビューティーディレクターと接する中で、「この人は目標達成できないかもしれない」という予想を超えてくるということを何度も実感しました。何も分からず右往左往していた人が、どんどん成長してショップオーナーとして活躍していくのを見て、ああ、人の力ってすごいな、と。そこが原点です。

 それが、40歳で本社に戻ることになった。最初に商品企画の仕事をした時、本社のスタッフは研究所やクリエイターと厳しい議論をしながら、ブランドコンセプトを一生懸命作り、売り方をとことん考えていることを知りました。この熱い思いを、作り手から売り手まで、バリューチェーン全体で一つにしなければお客様には伝わりません。訪問販売に関してのネガティブなイメージがあったのも確か。ポーラには、もっと伝えるべき良さがあるんです。

 そこで12年に43歳で執行役員になった頃から、身の程知らずにも「企業理念を変えましょう、CI(コーポレートアイデンティティ)を変えましょう」と言い続けました。誰もすぐに「そうだね」なんて言ってくれません。看板から制服から何もかも変えるということですから、莫大な予算が必要です。

 説得するために、様々なファクトを持ってきました。ブランドイメージに賛同する人が増えて離職率が下がるというのもその一つ。社員にアンケートをとって皆が考えていることを顕在化する、表立った活動だけでなく、水面下で同じように思っている人たちと勉強会をする……息の長い草の根活動をしていました。

――その努力が15年のポーラの独自価値の再定義となったわけですね。

及川 それが「Science. Art. Love.」です。17年にはシワを改善する薬用化粧品「リンクルショット メディカル セラム」がヒットしました。会社がやりたいことをやるだけじゃ駄目。今世の中に求められているものは何かを、一人ひとりが自分事として考えて、世の中から吸い上げて、提案できるようになったと思います。こんな真面目な人が作っているんだから、絶対に損はさせない。ポーラで働いているのを誇りにしてほしいし、「ポーラを使っているの、いいでしょう」と言ってもらえるブランドに変える、それが現場に恩返しする方法だと確信したんです。

 想定外の世の中だからこそ、経営陣の考えを遂行するチームにしたくはありません。私から方針は出すけれども、一人ひとりが考えて主体的に行動する方が強いです。だから、私から「こうして」という注文はできるだけつけないようにしています。皆は「えーっ?」って言うかもしれないけれども(笑)。口出ししたくなることの、8割は我慢しています。

 私がブランドマネジャーに聞いているのは、「あなたの理想に到達できている? 今、○、△、×のどこにいる?」と問いかけること。「×を付けたのはなぜ?」と言うだけで、答えは彼女が出すんです。

(写真提供/ポーラ)

(この記事は、日経クロストレンドで7月9日に配信した記事を基に構成しました)

※この記事を含む特集「 2021年のヒットをつくる人」は日経クロストレンドに掲載されています。

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