駅ナカの食品売り場は多くの人が前を通るため、ショーケース的に多めに陳列しなければ立ち寄ってもらいにくい。最後に食品ロスが出てしまうのは仕方ない、と割り切っている部分もあったという。そのロスを買い取ってもらえるのだから、店側のメリットは非常に大きい。
ただ、SDGsを実践できる素晴らしい取り組みのはずが、開始当初は店側の“塩対応”にも苦戦したという。「現場を取り仕切っているのはアルバイトの人がほとんど。現場にとっては追加の作業が増えてしまうだけなので、面倒臭がられることも多かった。ですが、取り組みを続けていくうちにものすごく態度や姿勢も変わってきてくれて。第1弾の最終日は『またやってください』といわれるほど好意的になっていました」(川越氏)
もちろんこの取り組みの意義を感じてくれてのことではあるが、現場にとってのプラスの効果もあったという。それは、ごみ出しの手間が省けるということ。東京駅構内を、ごみを集積するところまで延々と運ぶのは重労働のため、こういった地味なメリットもあった。
グランスタの食品ロスの1割を削減
店側から買い取った総量は実に1.1トン、販売数量は約1800セットに及んだ。東京駅のグランスタで出る食品廃棄のうち約10%が削減できた計算だ。最初のうちは全量は買い取らず、様子見から入ったが、すべて完売。途中からは行けると判断して全量買い取りに切り替えた。「1店舗から35㎏購入した日も。台車では運べなかったこともあった」(川越氏)。それでも在庫として残った日は1カ月中2~3日程度。一定の利益率の確保ができたことで、川越氏も「ビジネスとして十分成立しそうだ」という感触を得たという。

店側、買う側、コークッキングのまさに三方良しのモデルで、かつSDGsにもなる。実証実験第1弾の時点で、このビジネスモデルはほぼ完成していたといっていい。第2弾は参加店を増やしたり、すべてアナログだった部分にエアレジを導入したり、サブスクモデルを試してみたり、と小さな実証実験を行う予定だったという。4月1日から5月6日までの予定だったが、緊急事態宣言の影響でグランスタ自体が閉店。僅か数日で中断となってしまった。
川越氏にとって、JR東日本スタートアップ(東京・新宿)と組んだことでの最大の驚きは「影響力の大きさ」だったという。「とにかくメディアへの発信力が絶大。実証実験の様子を生中継してくれるテレビ番組もあり、JRの強さをものすごく感じました」。
次なる挑戦は横展開だ。東京駅でオペレーションを回せるなら、他の駅でも十分通用する。新幹線停車駅やアトレ、エキュートなどがある駅、JR東日本管内以外の駅などは射程圏内だ。加えて、「駅ナカではない商業施設にも展開していきたい」と川越氏は語る。最終的には、TABETEの会員システムとひもづけて、利用者にTABETEユーザーにもなってもらうというのが目標だ。
「SDGsは楽しくなければ続かない」と語るのは、JR東日本スタートアップの柴田裕社長。駅から始まるフードロス削減の輪が、全国各地に広がっていくのは時間の問題かもしれない。
※この記事を含む特集「 駅から始まる! JR東日本スタートアップの挑戦」は日経クロストレンドに掲載されています。
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