「データドリブン経営」が失敗する理由は、学び方が適切ではないからだ。ツールの使い方を学んでもビジネスパーソンのモチベーションは維持できない。データドリブン経営を成功させ、DXに生かすためにはデータ活用をどう学ぶべきか。これには3つのポイントがあることが分かった。
(写真/Shutterstock)
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 多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。だが最新のIoTやAI(人工知能)を導入することが、本当のDXなのだろうか。多額の投資をすれば、DXを推進したと満足感を得られるかもしれない。しかし、どこまで効果が上がるのかは疑問だ。

 DXは単にテクノロジーを導入することではない。目的は、効率的に業務を実施したり最適なサービスを顧客に提供できるようにしたりすること。そのためにデータを活用し、新たな経営スタイルへの転換する。これをデータに基づく経営、すなわち「データドリブン経営」と呼んでいる。

 データ活用というと、データサイエンティストなどの専門家集団が担当するイメージがある。しかし、そうした専門家だけでなく、一般のビジネスパーソンもデータ分析や統計解析といった最新ツールのスキルを身に付けることはできる。そうした人材を育成できれば企業はもっと強くなり、データドリブン経営に近づく。データを使った思考や意思決定を行える社員が1人でも多く増えれば、競争力強化につながるだろう。

 だが最新ツールのスキルを理解できればいいのだろうか。多くの企業は、表計算ソフトはもちろん、最近はAIツールまで学ばせようと、社内で研修をしてきた。だが、途中で挫折してしまうビジネスパーソンも少なくない。なぜ失敗してしまうのか。その理由は、学び方が適切ではないからだ。単にツールの使い方を学んでも、なぜ、何のために学ぶのか、それがどういう意味を持つのかまで理解できなければ、ビジネスパーソンのモチベーションは維持できない。データドリブン経営を成功させ、DXに生かすためにはデータ活用をどう学ぶべきか。これには3つのポイントがある。

基本さえ学べば、ビッグデータは怖くない

 1つ目のポイントは、ビジネスの業務とデータ活用を連携させて学ぶべき、という点だ。実務をイメージできれば、なぜこの分析が必要なのか、それがどういう結果につながるかが分かる。例えば顧客をつかむための分析とは何か、そのために必要なデータとは何か、どんな分析手法があり、どうデータを加工すればいいかといった、実際の業務と連携させながら実践的に学べば、ビジネスパーソンの理解は進むに違いない。

 「ツールのスキルばかりを学ぼうとすると、必ず大きな壁が立ちはだかり、脱落するビジネスパーソンが出てくる。その理由は、業務と連携しないままで学ぼうとするからだ。身に付けないといけないことは理解できても、業務と乖離(かいり)した学び方では理解しにくくなる」とデータ活用のコンサルティングなどを手がけるスマート・アナリティクス(東京・港)社長の畠慎一郎氏は指摘する。

スマート・アナリティクス社長の畠慎一郎氏
スマート・アナリティクス社長の畠慎一郎氏
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 2つ目のポイントは、社員の心理的な“ハードル”を下げることだ。データ活用というと、数学やプログラミングの知識が求められると思われがち。こうなると、初めからビジネスパーソンに心理的な抵抗ができてしまう。

 「プログラミングのスキルは不要。そこに時間をかけてはだめ」と指摘するのは、JR東日本MaaS・Suica推進本部 データマーケティング部門担当部長の渋谷直正氏だ。「ビジネスパーソンにとってデータ活用の目的は、業務の問題点や解決策を考えるため。そのため最低限の分析手法の知識さえあればいい。まずは、それだけでいいと明確に伝えることが心理的なハードルを下げる」(渋谷氏)

JR東日本MaaS・Suica推進本部 データマーケティング部門担当部長の渋谷直正氏
JR東日本MaaS・Suica推進本部 データマーケティング部門担当部長の渋谷直正氏
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 実務に即したデータを使い、実際に予測分析ができると分かれば、ビジネスパーソンはもっと使ってみようと思うだろう。そうすると、データ活用に対する意欲が湧いてくる。専門的で高度なデータ分析はデータサイエンティストが担当すればいい。

 3つ目のポイントは、データ分析の基本だけでもしっかりと理解することだ。そうすれば状況の変化に応じ、現場が応用できるようになる。「高度なデータ分析を求めると、確かに精度は上がるが複雑になってしまう。それより方向性だけでも分かるほうが現場は使いやすい」と話すのは慶応義塾大学商学部の清水聰教授だ。

 「複雑なデータ分析でなくてもいいが、根拠なくデータを見てはいけない。顧客分析といっても各社で状況は異なり、市場はどんどん変化している。なぜこのデータ分析をするのかを自分で納得できるようにしてほしい」(清水氏)

慶応義塾大学商学部の清水聰教授
慶応義塾大学商学部の清水聰教授
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 大量のデータを蓄積でき、ツールも高度化している。データドリブン経営に必要なものはそろってきた。しかし現場の実情に応じてデータ活用を推進しないと「宝の持ち腐れ」になってしまう。業務の知識を備え、なおかつデータ分析の高度なスキルまでも身に付けた「スーパービジネスパーソン」の育成は理想かもしれない。だが、いきなりビッグデータでは、中小企業にとっては荷が重いだろう。まずは企業の身の丈に合い、現場の着実な改善につなげることから始めるべきだろう。それがデータドリブン経営への近道といえそうだ。

(この記事は、日経クロストレンドで2022年6月7日に配信した記事を基に構成しました)

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