企業がデータを活用する際、真っ先に考えるのが顧客の履歴データをいかに読み解き、次の購買につなげるかだろう。中でも、購買や検索の履歴から人物像や行動を推定し、最適なタイミングで的確な広告を表示したり、商品のレコメンドをしたりする「パーソナライズ」を目指す企業は多い。
先行しているのは、やはり顧客のデータを収集しやすいネットサービス企業だ。例えば、アマゾン・ドット・コムなどのEC大手はもちろん、YouTubeやNetflixといったコンテンツ分野でも、レコメンド機能はLTV(顧客生涯価値)向上に直結するカギとして各社がしのぎを削っている。これに対し、百貨店やスーパーマーケット、ドラッグストアなど、対面して顧客の相手をする小売りやサービスの多くは、パーソナライズを志向しつつも、まだデータを収集して分析し、効果的な施策を試行錯誤しながら探している段階といってよい。
そんな中、データを活用したパーソナライズで独自色を打ち出しているのが、宿泊施設やレストラン、スパの予約サービス「一休.com」をオンラインで展開する一休だ。2020年7月には、オンラインサイトを大幅に刷新した。デザイン変更やトップ画面の検索窓の小型化など、さまざまなリニューアルを盛り込んでいるが、中でもレコメンド機能は「リニューアルの本丸」と、一休代表の榊淳氏が語るように、パーソナライズを一気に推し進めた。
売り上げ12%増につながったリニューアルとは
一休は代表の榊氏がデータサイエンティストであり、データドリブン経営を推進する。今回の新型レコメンド機能には、これまで一休が磨き上げてきたデータサイエンスの総力が注ぎ込まれている。
従来のサイトでも、ユーザーの閲覧・予約履歴などを用い、会員によって表示される宿泊施設が変わるレコメンド機能は備えていた。今回のリニューアルでは、レコメンドを含めたパーソナライズ領域を大幅拡大。サイトを見ると、トップ画面の上部に小さな検索窓が備えられているだけで、その下にパーソナライズされたレコメンドがずらりと並ぶ。内容も、「軽井沢×由緒ある老舗」「東京から2時間×離れ・ヴィラが人気」など、場所とシーン(条件)がセットとなった斬新なレコメンドが表示されるようになった。
リニューアルに踏み切った背景について、「利用者の宿の選び方が、以前よりも直感的になってきている」と、榊氏は話す。
従来型のホテル予約サイトは、「行きたい場所×人数×日程」を打ち込んで探すのが定石だった。だが、「どんなに細かく条件を指定して検索しても、自分の欲しい情報にだとり着くのが難しかった」と榊氏は話す。「それよりも、『静かに過ごせるヴィラに泊まりたい』『とにかく食事がおいしい宿に泊まりたい』といった、直感的・情緒的なイメージで探す人が増えており、そこにレコメンドの可能性がある」と、榊氏は判断したという。
そこで試行錯誤の末にたどり着いたのが、「場所とテーマなど、2つの要素を組み合わせた“2軸”のレコメンド」(榊氏)だった。前述のような「軽井沢」「東京から2時間」といった場所に加え、「由緒ある老舗」「離れ・ヴィラが人気」「オーシャンビュー」「ご飯が美味しい」といった、80以上ものテーマを組み合わせている。「会員同士でトップ画面に出るホテルがすべて同じ状態になることはほぼない」と、レストラン事業本部マーケティング部兼宿泊事業本部マーケティング部の佐藤亮介氏が話すほど、パーソナライズが進んでいる。
レコメンド強化に加え、Googleで「地名×ホテル」といったキーワードで検索した人が遷移してくるランディングページをカスタマイズするなど、さまざまなリニューアルを実施。テーマ別のレコメンドからの流入も多く、結果としてサイト全体で12%もの売り上げ増につながった。
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