購買のアクセスの主流はクルマからスマホへ
「大手スーパーは人の移動手段が電車からクルマに移り変わる中、大きな駐車場を併設したことが成長につながった。時代は変わり、今度は購買のアクセスがクルマからスマホに移ってきている。もはやクルマよりスマホの方が普及している。スマホからのアクセスを持たないスーパーは、クルマ時代に駐車場を持たないのと同じことだ」と高倉氏は持論を語る。
ただし、単にアプリを開発しただけでは不十分。重要なのは進化させ続けることだ。「アプリ開発にはコストがかかる。そのため、大手企業でも改善が止まることは多い」と高倉氏は指摘する。スマホ時代においてアプリの改善を止めることは、売り場の改善を止めることと同義だ。最後の条件は「継続的なスマホへの投資」となる。
スーパーサンシは小売りでは珍しく、スマホ向けアプリを自社開発する。アプリ上には旬の品の特売など、さまざまな企画が並ぶ。「スーパーにはPOP(店頭販促物)が並び、さまざまな企画が展開されている。店より楽しく、買いやすいを実現するには事業者がアプリを開発しなければならない」と高倉氏は自社開発にこだわる理由を説明する。ただきれいに商品を画面上に並べただけでは売れない。これも培ってきたノウハウの1つだ。「UI(ユーザーインターフェース)で売れるのではない。UIはあったらいいぐらいのものだと考えるべきだ」と高倉氏は指摘する。
より買い回りがしやすい利便性も追求する。例えばアプリを利用するほど、よく購入する商品が検索結果の上位に表示されるようになるなど、一人ひとりに適した売り場になっていくロジックを組んでいる。例えば、「オレンジ」と検索した場合、果物、ジュース、菓子などさまざまなカテゴリーの商品が該当する。そうした場合、購入頻度が高い商品を上位表示した方が顧客は買いやすいという考えからだ。
また、アプリへのプッシュ通知を活用することで、商品が届く目安が分かり安心感につながる。具体的には荷物をトラックに積載する際に、バーコードをスキャンすると1軒目に配送予定の顧客にプッシュ通知が届く。配達ルートは決まっているため、1軒目の配達が完了すると、次に配達予定の顧客にプッシュ通知が届くといった具合だ。
このようにスーパーサンシのネットスーパーは利益が出る基盤の上に、デジタル上の売り場をつくることで事業として成立するビジネスモデルを築き上げている。「きちんとやれば店舗よりも利益は出せる」と高倉氏は言い切る。同社のネットスーパーは従業員の稼働時間わずか5時間。朝までに注文された商品を箱詰めして、配送したら店じまいだ。人員配置に無駄がないため、むしろ効率が良い。
ただ、そうしたノウハウを持たず、ネットスーパーの展開に二の足を踏む企業が大半だ。全国スーパーマーケット協会によれば、ネットスーパー実施率はわずか15.4%にとどまっている。スーパーサンシは地方スーパーのDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するため、自社のノウハウをネットスーパーのソリューション「NetMarket」として横展開し始めている。ドラッグストアの食品の取り扱い強化やECのプラットフォーマーの台頭で、一方的に売り上げを奪われてきたスーパーにとって、ネットスーパーへの挑戦が逆転の一策となり得る可能性がある。
(この記事は、日経クロストレンドで3月8日に配信した記事を基に構成しました)
※この記事を含む特集「小売りDX「ネットスーパー新時代」」は日経クロストレンドに掲載されています。
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