こんなクライアントは嫌だ
「クライアントは、デザイナーに過大な期待をしてくる。デザインの対価を不明確にしたまま、さまざまな業務をデザイナーに丸投げしてくる」。あるデザイナーは、こう語る。
「クライアントは、デザイナーを“下請け”のように扱うのか、命令口調で指示してくる」「クライアントは、デザイナーが手掛けたデザインの内容を、勝手に変えてしまう」という悩みを話すデザイナーもいる。「クライアントとデザイナーの関係を“パートナー”として認識し、一緒に考えながら進めてほしい」というデザイナーの意見もある。
これまでデザインに深く接してこなかったクライアントの中には、デザイナーとの付き合い方を測りかねている場合もあるようだ。「当社はグラフィックが専門のデザイン会社なのに、クライアントはなぜかプロダクトのデザインを依頼してきた」という話もあるなど、デザインに対するクライアントの認識不足の面は否めない。
こんなデザイナーは嫌だ
だがクライアントからは、こんな声もある。「クライアントがどんな企業なのかも理解せずに、デザイナーは自分勝手なデザインを提案してくる。デザインのトレンドばかりではなく、クライアントの要望や身の丈に応じた提案をしてほしい」というものだ。
「クライアントがアイデアを出すばかりで、デザイナーはクライアントの言う通りのデザインしか対応してくれなかった。料金の問題もあったのかもしれないが、クライアントばかりが考えるなら、デザイナーはいらない。それではデザイナーではなく、デザインシステムのオペレーターではないか。クライアントが考える以上の提案をしてほしかったし、最初の話し合いのときに“この料金では、これ以上はやりません”と言ってほしかった」と話すクライアントもいた。
「職人がデザイナーの言う通りの形にして、最高の材料で最高の品質の商品を作ったものの、価格が高くなってしまって売れなかった。確かにデザインは優れていると思うが、売れなくては意味がない。デザインもいいが、マーケットに即した提案を望みたい」というケースもあった。
ミスマッチを防ぐ
こうした声がデザイナーやクライアントから出てきている最大の理由は、双方の理解がまだ足りないからだろう。デザイナーとクライアントの間にある“溝”を埋めなくては、デザイン経営の実現は望めない。今回、取材した企業を見るとデザイナーとクライアントがコミュニケーションを高め、互いの役割を明確にしながら進めている。誰が何をどこまで実行するのかを、双方が納得することが重要になる。どちらかが一方的に進めてしまうと、信頼関係が崩れるだけだ。
例えば、神奈川県小田原市の鈴廣蒲鉾本店(鈴廣かまぼこ)は、外部の個人デザイナー、クライアントのインハウスデザイナーや経営幹部が毎月1回、定例会議として集まり、パッケージや店舗、パンフレットなどさまざまなデザインの方向性について議論し、双方が納得しながらデザイン戦略を推進できるようにした。河合塾(名古屋市)とデザイン会社のkenma(東京・新宿)は、河合塾の新規事業を立ち上げるに当たり、デザイナーがビジネスパートナーとしてプロジェクトに参画。販売などについてもアドバイスするなど、深く結びついた支援を行った。
革製品を手掛けるアーバン工芸(香川県東かがわ市)とSASI DESIGN(兵庫県宝塚市)は、デザイナーが、クライアント企業のコンセプトづくりや経営人材の育成にまで関与。経営コンサルティングのような役割を担っている。不動産の再生事業を推進するループレイス(東京・千代田)は、それからデザイン(東京・渋谷)に依頼して企業のリブランディングを実施。デザインのプロセスを公開し、クライアントと一緒になってプロジェクトを推進したため、クライアントの満足度が高まった。
今回の特集「デザイン経営 成功への道」では識者のインタビューも交え、これからのデザイナーが進むべき方向性について意見を聞いた。デザイン経営が成功するかどうかは、デザイナーとクライアントの関係強化が最大のポイント。双方が歩み寄らなくては、溝は埋まらない。
(この記事は、日経クロストレンドで2月15日に配信した記事を基に構成しました)
※この記事を含む特集「デザイン経営 成功への道」は日経クロストレンドに掲載されています。
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