ファンをつかんで離さない酒造りの工夫とは?

 酒造りにもファンをつかんで離さない工夫がある。まず、素材は地元産に徹底的にこだわった。仕込み水は大雪山系の天然水、米は「彗星」などの北海道産の酒造好適米のみを使い、道内初の全量純米蔵とした。

 そして、目指したのは「毎日飲みたくなる酒」だ。総杜氏の川端慎治氏は「最近のはやりは居酒屋などで複数を飲み比べたときに目立つ、香り高くインパクトのあるお酒。一方で、上川大雪酒造は飲み飽きないうまくて軽い酒質を重視した」と語る。定番の山田錦とは全く異なる特性の米から看板となる味を作り出すため、初年度は48パターンもの試験醸造を行った。「これだという実感を得たのは、精米歩合60%で作った『上川大雪 特別純米』ができたとき。水質と米が絶妙にマッチし、柔らかな水の味わいがダイレクトに感じられる飲み口に仕上がった」(川端氏)という。

 「ほぼ毎日、全国から取引希望の問い合わせがあるが、緑丘蔵の生産量をこれ以上増やすつもりは無い。手造り小仕込みのため、東京の酒販店からの新規の仕入れ希望も断っている」と語る塚原氏が次に狙うのは、「上川モデル」の横展開だ。

 20年4月には国立帯広畜産大学と共同で、キャンパス内に上川大雪酒造の新酒蔵である「碧雲蔵」を竣工。クラウドファンディングの「Makuake」で、大学内で初めて仕込んだ酒「十勝」が応援購入できる取り組みを立ち上げたところ、瞬く間に日本酒プロジェクトの中で過去最高の支援額を獲得。産学連携で酒蔵を創設する国内初の試みは、地方創生を重視する上川モデルと相性が良く、大学OBや地元住民を巻き込み、購入総額は約3000万円、達成率約3000%まで伸びた。

「碧雲蔵」は帯広畜産大学との産学連携によって設立され、キャンパス内に位置する。上川大雪酒造は2000リットルクラスのタンクで造る少量・高品質生産を掲げる。川端氏は酒造りを行いながら、同大学の客員教授も務める
「碧雲蔵」は帯広畜産大学との産学連携によって設立され、キャンパス内に位置する。上川大雪酒造は2000リットルクラスのタンクで造る少量・高品質生産を掲げる。川端氏は酒造りを行いながら、同大学の客員教授も務める
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 既に新たなヒット商品も生まれている。碧雲蔵では、日高山脈を水源とし清流日本一に何度も輝いた札内川水系の水を使っており、硬度103ミリグラム/リットルと中硬水のため、軟水を使う緑丘蔵とはまた違った味わいが楽しめる。20年11月に十勝管内限定で発売した「純米 十勝 初しぼり」(税込み1320円・720ミリリットル)は8000本を造り、地元だけで初回6000本の注文があった。

北海道の酒造好適米と地元の水を掛け合わせた
北海道の酒造好適米と地元の水を掛け合わせた
「純米 十勝 初しぼり」(税込み1320円・720ミリリットル)
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 21年以降も北海道内を中心に酒蔵を新設していく計画だ。まず21年11月までに函館工業高等専門学校(函館市)と共同で函館市内に酒蔵を建設し、醸造開始を目指す。廃校となった小中学校の敷地内に、函館高専のラボやショップを併設する。オホーツク地域に酒蔵を建設する動きもあるうえ、「酒造免許を移転して酒蔵を作り、町おこしにつなげたい自治体や事業者からの問い合わせは全国から数多い。ノウハウは隠すこと無く伝えている」(塚原氏)。自社以外にも上川モデルが広がれば、次々と全国に「東京で買えない地酒」が生まれ、地域活性化に役立ちそうだ。

(この記事は、日経クロストレンドで2月15日に配信した記事を基に構成しました)

※この記事を含む特集「ビール・日本酒・ワイン ブレイク予測!」は日経クロストレンドに掲載されています。

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