その分類を基に、特定の関心を持った消費者が広告枠に接したときに、システムを通じて広告主側の広告枠の買い付けツールで競りにかけられ、複数の広告主がオークションを実施。落札した広告主の広告が表示される。この間、0.1秒以内だ。自動車メーカーがクルマに関連したコンテンツの閲覧履歴を持ったブラウザーが訪問した場合だけ広告枠を買い付けるといった具合に活用できる。ターゲット層だけに効率的に広告を打つ手法として重宝されてきた。

 しかし、サイト訪問者にとっては自らの閲覧履歴データが同意なく広告売買に使われていたことになる。「サード・パーティー・クッキーが抱える課題の本質は技術的な問題よりも、消費者が自分のデータを勝手に取得されたり、誰にどう使われているかが分からなかったりする点にある」と個人情報管理支援事業のDataSign(東京・港)の太田祐一社長は指摘する。

 それがより鮮明になったのが、いわゆる「リクナビ問題」だ。リクルートキャリアが就職情報サイト「リクナビ」で取得したアクセス履歴から集計した内定辞退率データを、登録会員からきちんとデータ提供の同意を得られていないにもかかわらず、採用広告出稿主の企業に提供していたことで大きな批判を招いた。クッキーは直接的に個人情報を取得するわけではないが、さまざまなサイトの利用履歴を統合すると結果的に個人特定に至る可能性がある。こうしたクッキーを巡るプライバシーが見直され始めたことが、サード・パーティー・クッキーを巡る騒動の発端だ。

従来はサイト訪問者の同意なくサード・パーティー・クッキーが付与され、広告配信に活用されていた
従来はサイト訪問者の同意なくサード・パーティー・クッキーが付与され、広告配信に活用されていた
[画像のクリックで拡大表示]

 EU圏では、企業が同意なくクッキーを付与することを禁止する規則が施行された。「GDPR(一般データ保護規則)」だ。GDPRでは、サイト訪問者に必ずクッキーを付与する前に告知・同意を得ることを義務付けている。さらに取得したデータを管理し、個人の要望に応じて参照・削除可能な状態にする必要がある。GDPRはEU圏在住者だけでなく、EU圏在住者がアクセス可能なサービス事業者も対象になる。ここ最近、初回アクセス時に、クッキー利用の許諾を求めるポップアップを表示するWebサイトが増えた印象はないだろうか。GDPRでは事前にクッキー利用に関する同意を得る必要があるからだ。

クッキー廃止でグーグルが受ける影響は?

 脱クッキーに向けて米アップルは既に20年3月にWebブラウザー「Safari」で、サード・パーティー・クッキーの受け入れを完全にシャットアウトしている。Webブラウザー「Firefox」を展開する米モジラも同様に、19年にサード・パーティー・クッキーを受け入れない初期設定にした。いずれの企業も収益モデルがグーグルとは異なり、クッキーを排除したところで業績に大きな影響は出ない。だから、対応が迅速だった。

 一方、グーグルが規制に慎重だったのは、サード・パーティー・クッキーの活用を含むデジタル広告が主な収益源だからだ。また、同社は媒体社と広告配信会社を結び付ける、広告のエコシステム(生態系)を担う存在でもある。「プライバシーか広告かという極端な選択ではなく、プライバシーを優先しながら広告でもパーソナライズしたコンテンツを提供する。両立できる方法を検討していく必要があると考えた」とビンドラ氏は言う。

 「サード・パーティー・クッキーの廃止は、グーグルをはじめとする大手プラットフォーマーの広告事業にも大きな影響を及ぼす」。こう指摘するのはメディア向けに広告システムを開発するfluct(東京・渋谷)取締役CTO(最高技術責任者)の鈴木健太氏だ。

 グーグルの広告収益の柱の1つが、ブログなどの個人運営サイトを含む幅広い第三者メディアに広告を配信するネットワーク広告事業だ。第三者のメディアを横断したターゲティング広告の裏側には、やはりサード・パーティー・クッキーが使われている。つまり、Chromeでサード・パーティー・クッキーの受け入れを停止すると、グーグル自身も広告ビジネスが打撃を受ける可能性がある。だから、グーグルはクッキーに依存しない広告プラットフォームの開発を急いでいるわけだ。

 Chromeはブラウザーに占めるシェアが高く、広告市場に及ぼす影響が大きいことも慎重さに拍車をかけた。アイルランドのWeb解析会社スタットカウンターのデータによれば、20年のブラウザーシェアのうち64.5%をChromeが占め、2位のSafari(17.8%)を大きく引き離している。日本ではChromeが47.3%で、Safariは31.4%と海外ほど大差ではないが、やはりChromeがトップシェアを握る。そのグーグルもいよいよサード・パーティー・クッキーの廃止に向けた活動を本格化させた。そのため、デジタルマーケティング業界で地殻変動が起こりつつあるのだ。

(この記事は、日経クロストレンドで2月8日に配信した記事を基に構成しました)

※この記事を含む特集「クッキー規制、どう対応する?」は日経クロストレンドに掲載されています。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「日経クロストレンド」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。