リアル店舗の救世主目指す「アバターロボット」

 5Gで距離を超え、リアルとバーチャルの融合を目指すサービスはこれだけではない。「良くも悪くも、新型コロナウイルスが爆発的な推進力となるだろう」。そう話すのは、この20年4月にANAホールディングスから分社化したアバターのスタートアップ「avatarin」(東京・中央)のCEOに就任した深堀昂氏だ。同社が開発を進めるアバターは、ネット上のバーチャルな存在とは異なる。カメラやディスプレーが搭載された自走式の「アバターロボット」を商業施設などに配備。自宅のパソコンで遠隔操作し、店員の接客を受けながら商品を選ぶことができる。

ANAホールディングスから独立したavatarinの深堀昂CEO。並ぶのは開発したアバターロボット「newme(ニューミー)」
ANAホールディングスから独立したavatarinの深堀昂CEO。並ぶのは開発したアバターロボット「newme(ニューミー)」

 19年から、三越伊勢丹などとトライアルを開始。同年12月に行ったギフト商品の販売では、遠隔での接客の結果、購入に至った人が51%に上ったという。「通常、ECサイトにアクセスした人の購入率は1%程度という。それに比べると非常に高い」(深掘氏)。もともと商品そのものやアバターでの購入に関心があるユーザーが集まった点は差し引く必要があるが、一定の有用性は確認できたといえるだろう。

 ここでも5Gが追い風になる。avatarinが開発したアバターロボット「newme(ニューミー)」は、既存のLTE回線(4G)やWi-Fiで動作するように作られている。ただ「5Gでの実験も始めており、より高精細な映像で、商品の特長などを伝えられるようになる」(深掘氏)。それ以上に期待しているのが、5Gの特徴である同時多接続だという。「例えば商業施設内に多数のアバターロボットを配備したくても、Wi-Fiでは接続数の上限があり、混信の恐れもある。5Gが使えるようになれば、アバターが密集するような場所でも、問題なく操作できるようになる」(深掘氏)。

 重要なのは、小売りにとってリアル店舗でもECサイトでもない、第3の選択肢が出現したことだ。アバターを使った遠隔販売では、商品の特徴やストーリー性を伝えやすく、比較的付加価値の高い商品の販売に適しているという。新型コロナウイルスの影響で、百貨店やショッピングセンターなど大規模な商業施設は営業自粛に追い込まれている。「今までは、アバターなんて使う必要があるの? と言われることがあったが、今は国内外から問い合わせが殺到している」(深掘氏)。当面は新型コロナウイルス患者を遠隔で見守る用途として、医療機関への貸し出しを優先させているという。

 しかし事態が落ち着き次第、当初の計画通り、商業施設などへの配備を進める予定だ。ネット販売の広がりで、百貨店などリアル店舗の苦戦が続いているが、アバターを通せば、訓練された販売員による高品質な接客という価値を、全国誰にでも提供できる。これもオンラインとオフラインの融合の1つの形といえるだろう。「21年夏に延期となった東京五輪・パラリンピックまでには、街に社会実装させたい」と深堀氏は話す。

アバターロボットはウェブブラウザから操作が可能。ユーザー側には特別な機器が不要なので、ロボットさえ配備すれば普及スピードは速そうだ
アバターロボットはウェブブラウザから操作が可能。ユーザー側には特別な機器が不要なので、ロボットさえ配備すれば普及スピードは速そうだ

 深堀氏は「技術は確立していても、何に使っていいかが分からなかったり、有用性が理解されなかったりすることが多い。マインドセットを変えるのは、一番パワーがいるからだ。しかし、新型コロナウイルスが、そこを大きく動かしつつある」と現状を分析する。5Gも、高速大容量、低遅延、同時多接続という技術面が先行し、用途開発に苦労してきたのが実態だ。しかしここへきて、VRやAR、アバターといった“近未来”が一気に現実のものとなってきている。

※この記事を含む特集「 発進「日本版5G」実サービスの真価」は日経クロストレンドに掲載されています。

(写真/佐藤嘉彦)

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