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コールセンターの活用で完全無人化も

 この店の面積は、約60平方メートル。同規模のコンビニだと、3人のスタッフで運営するのが一般的。無人化システムを導入することで、商品補充や発注などを行うスタッフ1人だけで済む。スタッフは、普段はバックヤードにいて、必要なときだけ店内に入って作業する。同社は、ここで開発したシステムを第三者に販売する考えだ。価格は同規模の店舗の場合で月額80万円(別途、カメラなどの設置費用が必要)。

 現在のアルバイトの平均時給は、1100円程度。24時間営業のコンビニに常時スタッフが3人勤務していた場合、毎月の人件費として約240万円が必要になる。無人化システムの導入によって、常時1人分の人件費80万円とシステム利用料80万円の合計160万円で運用できる。運用コストを80万円削減できる計算だ。さらに同社は、客の問い合わせに対応するコールセンター機能を備える計画だ。これを使えば、例えば客の少ない深夜帯にはバックヤードのスタッフも置かず、完全無人で店舗を運営できる。

 無人化システムのメリットは他にもある。客が利用するのに専用アプリや事前のユーザー登録が不要な点だ。国内で広く普及している交通系ICカードで決済できるので、店側はカメラやセルフレジなどの設置をすれば、比較的短期間で無人化に移行できる。

 「システムの外販については、地方のコンビニや小規模な売店などの需要を見込んでいる。アルバイトの採用が難しく、早朝や夜間のスタッフを確保できない店舗は少なくない」とTOUCH TO GOの阿久津智紀社長は語る。ここ数年、平均時給は上昇傾向にある。無人化システム導入にメリットを感じる店舗経営者は多そうだ。

無人化システムを導入する店舗は、天井には各50台のカメラとセンサーを設置する

 実は、TOUCH TO GOは17年にJR大宮駅で、18年にJR赤羽駅で、それぞれ期間限定で無人化の実験店舗を運営していた。そこでの検証結果を踏まえてシステムを改良し、満を持して1号店を開いた格好だ。今回改良を加えた点は大きく2つある。

 1つは、カメラ映像からAIが客を判別するロジック。これによって、判別精度が向上し、同時に買い物できる客の数が、実験店での3人から7人に増えた。「さらに改良を加えることで判別できる人数を10人以上にできる」と阿久津社長は話す。

 もう1つは、商品登録用のアプリケーションだ。この店では、商品を販売する前にパッケージの画像やどの棚に置くかを登録する必要がある。実験店では、この登録作業のための使いやすいアプリケーションを用意していなかった。これを新たに開発したことで、商品登録作業がこれまでよりも簡単にできるようになった。加えて、AIによる商品の判別精度も向上した。これによって、実験店では140アイテムだった商品数が、新店では約600アイテムに増えた。

 TOUCH TO GOの仕組みでは、客の行動や購買に関するデータの収集・蓄積が可能だ。今回、常設店という位置付けでオープンした高輪ゲートウェイ駅の店舗でも、設置したカメラとAIによって、利用者の年齢や性別などを識別し、データとして収集する性能は備えているという。今はそれらのデータを活用するためのサービスを持ち合わせていないため、情報として記録していないという。今後はこれらのデータをどう活用するかが課題だ。

 日本では、無人店舗を導入する小売店の多くが、省人化したオペレーションの確立とユーザーの利便性を優先させ、データ活用への取り組みは後回しになりがち。一方、米国や中国では、無人店舗における先を見据えたデータ活用への取り組みが盛んだ。例えば、スマートフォンを使ったキャッシュレス決済で店舗の利用者の購入履歴を把握し、利用者ごとの好みの商品をAIで分析して注文時にアプリ経由でリコメンドする。また客の行動をカメラで追跡し、入店後すぐに買われる商品と悩んだ末に買われる商品をAIで分析。すぐに買われる商品を店の入り口付近に並べるといった取り組みも進む。

 日本でも、店内における利用者の行動履歴をカメラとAIでデータ分析する取り組みなどには先行事例がある。だが、こうした利用者のデータを、個人の履歴を獲得しやすいキャッシュレス決済のデータとひも付けて、個人の嗜好や消費動向を浮き彫りにし、何らかの手段で利用者に働きかけるところまでは、なかなか到達していない。各社の試行錯誤が続いている。もっとも日本の無人店舗も、いずれはこうした先進的なデータ活用に踏み出すはずだ。

 TOUCH TO GOでは今後、まず利用者の属性データなどを収集・分析し、それに合わせて店内にあるサイネージにお薦め商品を表示することを検討している。また、ある商品を手に取ったけれど棚に戻した客の人数や、買い物をしないで店から出た客の店内での動きなどのデータを分析し、マーケティングに活用することも考えているという。

TOUCH TO GOの阿久津 智紀社長

※この記事を含む特集「 日本でも進む“無人店舗”への動き」は日経クロストレンドに掲載されています。

写真/小西範和