キリンビバレッジの基幹ブランド「キリン 午後の紅茶」がコロナ禍以降、顧客からの共感を獲得し、好意度を高めている。2020年3月に開始した「幸せの紅茶、午後の紅茶。」をテーマにした新しいテレビCMをきっかけに、消費者10~60代男女のブランド好意度が4ポイントもアップしたという。

新型コロナウイルス感染症拡大による消費者の価値観、行動の変化は大きい。その変化は当然、商品企画やブランディングにも影響を与える。いちはやくその変化を捉えてリブランディングしたり、新たなブランドを成功させたりするカギを探る特集「コロナ禍に勝つブランディング」の第1回は、キリンビバレッジの基幹ブランド「キリン 午後の紅茶(以下、午後の紅茶)」を取り上げる。
新型コロナウイルス感染症が日本で急速に広がり始めた2020年3月、午後の紅茶は「幸せの紅茶、午後の紅茶。」をテーマにした新しいテレビCMの放映を開始した。すると消費者10代から60代男女のブランド好意度が4ポイントアップ。女性は全世代で2桁の伸び率で、40代女性の伸び率が最も大きく18ポイントもアップしたという(同社調べ)。
同社マーケティング部ブランド担当 担当部長 シニアブランドマネージャーの加藤麻里子氏は驚きを隠さない。「好意度がこれほど伸びるのは珍しい。18年から20年までの過去3年間、40代女性の伸び率の平均は約1ポイントだったが、新しいテレビCMを放送後に急上昇した」。
パーパスが共感を獲得する理由
午後の紅茶の好意度が急上昇したのは、ブランドのパーパスブランディングが奏功しているからだと同社では見ている。キリンビバレッジは19年から、ブランドのパーパス(社会的な存在意義)を打ち出し、ユーザーの共感を得て好意度を高めていくパーパスブランディングに取り組んでいる。
午後の紅茶のパーパスは「いつでもお客様に幸せなときめきを届ける」、ビジョンは「日本で一番多くのお客樣のずーっと大好きな飲み物になる」。ビジョンの実現のために、できるだけ多くの人たちにパーパスを感じてもらおうと、ブランド広告として今回のテレビCMを制作した。
テレビCMは、メインキャストを務める女優の深田恭子をはじめ、老若男女が日常の中で家族や友人と過ごす「幸せ」な瞬間を、温かみのあるトーンで描いている。日常には何気ない「幸せ」や「ときめき」があり、午後の紅茶はそんな瞬間に寄り添う存在である──。そんなパーパスから生まれたメッセージが、新型コロナ禍で不安な日々を過ごしている人たちの心に刺さり、共感を呼んだのだ。
商品には機能的価値と情緒的価値があるが、モノが充足している現代ではさまざまな分野で情緒的価値の重要性が叫ばれている。さらにコロナ禍のように不安が広がる時代においては、平時よりも情緒的価値に対する消費者の反応が高まっている可能性がある。
そもそもパーパスの策定は、企業やブランドが「なぜ、この社会に存在するのか」を問うところから始まる。ルーツや開発者の思い、情熱、顧客や世の中のニーズなどから掘り起こし、企業やブランドの社会的な存在意義を見いだしていく。本質から導き出したパーパスだからこそ、それを基にしたブランディングは共感を得やすい。
午後の紅茶はより多くの共感を得るために、テレビCMが説明的になりすぎないようにしたという。「午後の紅茶は老若男女に向けた商品。今回のブランド広告は多くを語らず、音楽でメッセージを伝えることにした。そのほうが、午後の紅茶が目指す世界観を感じてもらえると思ったからだ」(加藤氏)。そばにある「幸せ」をテーマに、バンド「RADWIMPS」の野田洋次郎が午後の紅茶のために楽曲を書き下ろした。
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21年に誕生35周年を迎える午後の紅茶は、主力商品の「午後の紅茶 ストレートティー/ミルクティー/レモンティー」の味とパッケージをリニューアルして3月9日に全国発売した。味は、フレーバーごとに相性の良い品種のスリランカ産茶葉を使用。茶葉の配合のバランスも見直し、「午後ティー史上最高おいしい!」味わいを実現した。今回のリニューアルも「いつでもお客様に幸せなときめきを届ける」というブランドのパーパスに基づいて取り組んだ。
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