リモートワークでリアルな雑談が減り、アイデアが生まれなくなった、リアルな買い物がしづらくなり、ますます衝動買いをしてもらえなくなった。コロナ禍で生じた人と人、人と物の「距離」をどう縮めるか? 「セレンディピティー」はどうすれば生み出せるのか、偶然が生み出す「ひらめき」の作り方を探る。

 「セレンディピティー」という言葉が再び脚光を集めている。極めて簡単に言うと「偶然の出会い(出合い)やひらめき」の意味だ。

 「日本でよく使われるようになったのは10年ぐらい前」と野村総合研究所パートナーの倉林貴之氏は語る。「人口減少社会といわれるようになり、『ないものをどう生み出すか』という視点から、セレンディピティーの考え方に注目が集まったと考えられる」。各社のロードマップの延長線上にない、新たな視点からもたらされた偶発性に期待したい、という時代の要請だったといえるだろう。

 ただ定着には至らず、しばらく話題に上らない時期が続く。再び注目を集めるに至ったのは、新型コロナウイルスの感染拡大と相関して、“2つの意味”でのセレンディピティーが失われてきたからだ。

「2つのセレンディピティー」が、コロナ禍で失われつつある。オンラインでどうつくり出すのかが喫緊の課題になっている(画像/Shutterstock)

 1つ目が「人と人とのセレンディピティー」。この場合、広義の意味では異性との出会いなども含まれるが、コロナ禍のビジネスシーンで失われているのは別の意味だ。リモートワークが急速に広がったことで、リアルで家族以外の誰とも会わずに、自宅などで黙々と仕事をする人が急増した。これによって失われたのが「何気ない雑談」だ。例えばオフィスの廊下で久々にすれ違った同僚との会話や、ランチなどの息抜きの場で、思わぬアイデアが生まれる。こんな経験をしたことのある人も多いのではなかろうか。

 リモートワークでは、ある意味極めて合理的に会議や打ち合わせが組まれ、オンラインで顔を合わせるのは同じ部署の同じ人ばかり。違う部署の人と話す機会は、事前に用意しない限りはなかなか生まれない。こういった環境において、失われつつあるのがセレンディピティーによる偶発的なアイデアといえる。

 2つ目は「人と物とのセレンディピティー」だ。もともとEC化が進んでいた小売業界に、コロナ禍に伴う外出自粛の流れが加わり、生活必需品を売るスーパーなど一部を除き苦境が続く。リアル店舗の優位点は、陳列された商品を見て実際に触ってもらい、目的買い以外の購買を促しやすいこと。ふらりと立ち寄った雑貨店で、一生モノの道具と出合う、あるいは書店でお目当ての本が見つからず、代わりに面白そうな新刊を思わず購入する。以前にはよくあった光景だが、リアル店舗から足が遠のいたことで「そういえば最近、衝動買いをしなくなった」という人も多いはずだ。

リアル書店はセレンディピティーが生まれやすい空間だといえる(写真/Shutterstock)

 コロナ禍で再び話題に上ることが増えたセレンディピティーだが、野村総研の倉林氏は「その前から少しずつ兆候があった」と見る。キーワードはDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。

 「ITの進化でデータをためやすくなったことで、それをどうやってビジネスに生かすか。データを分析した結果をサービス改善に生かしていくべきだという流れになった」(倉林氏)。つまり、ロジックに基づいてセレンディピティーを意図的につくり出し、DXからイノベーションを誘発させようという試みだ。この流れを一気に加速させるアクセルとなったのが、新型コロナだったというわけだ。

 倉林氏はさらに、先ほどの「人と人」「人と物」という2つのセレンディピティーは、実は表裏一体なのではないかと分析する。「ビジネスパーソンとして働く側面と、コンシューマーとして消費する側面。どちらも人間の社会活動の中で起きている事象」(同氏)。全く異なる部分で起きているように見えるセレンディピティーの欠如だが、別々に考えないほうがむしろいい可能性もある。

続きを読む 2/3 GAFAでも対応は真っ二つ

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