活力のない組織の症状(1) 「おっさん力学」による強い同質圧力

 少し前に、某県の女性活躍の応援ポスターが話題になった。「女性が、どんどん主役になる」というコピーと共にある応援団の写真が、全員スーツ姿の中高年日本人男性だったからだ。しかし、これを笑える企業は少数ではないだろうか。日本企業の女性役員数は、19年でいまだに約8%にとどまり、フランス(45%)、英国(33%)や米国(26%)と比較して著しく低いのが現状だ(OECD主要上場企業の女性取締役比率調査結果による)。また、女性管理職の比率も日本は13%にとどまり、米国(43%)、英国(35%)、フランス(32%)よりはるかに低い。もちろん、国籍や人種で見る多様性は、言うに及ばない。

 多様性の乏しさが引き起こす問題は、さまざまな文脈で語られている。、「同じ企業に長年勤めた中高年日本人男性」という同質性の高い集団による経営が、新たなことに挑戦したり新たな価値を生みだしたりする活力を、組織から知らず知らずのうちに奪ってしまうようだ。

活力のない組織の症状(2)  エビデンスの過剰信仰

 ビジネスパーソンであれば、「PDCAの実践」と「事実に基づく科学的判断」の大切さを若い頃から叩き込まれている方も多いだろう。計画を立てて実践し、事実に基づき現状を正しく分析して、カイゼンする。日本企業、とりわけ製造業が生産性と品質で圧倒的優位を誇った1980年代には、PDCAと科学的判断が末端の現場でまで実行できたことが、その強みの源泉だったことは間違いない。予測可能な、安定的な翌年が来る事業環境では、このアプローチはきわめて効果的、効率的だった。

 しかし、それを金科玉条のごとく守ってきた結果、経営判断のあらゆる局面で「エビデンス提出とそれに基づく判断」、すなわち精緻な事実分析に基づく意思決定が常識となった。もちろん、事実に基づかない判断より、事実に基づいた判断を下した方が良いに決まっている。

 ただし、それは「事実が世の中に存在する場合」に限る。既存事業の拡大や、既存サービスの改善であれば、精緻なエビデンスに頼るのも悪くないだろう。しかし、今は、業界の外、常識の外から突如、新たな波がやってくる時代だ。なにより、イノベーションとは「今まで世になかった価値を生みだす」、すなわち「不可能と思われていたことを可能にする」ことである。実践する前に、成功を保証する市場規模や技術の裏付けの証拠(エビデンス)など、出せるわけがない。それにもかかわらず、新規事業や新サービス、あるいは新たな提案に「完璧な事前エビデンス」を求められるシーンを、あなたの会社で見たことはないだろうか?

活力のない組織の症状(3) 余力と余白ゼロの組織運営

 一橋大学名誉教授である野中郁次郎氏は、現在の日本企業の閉塞感は、オーバー・プランニング(過剰な計画崇拝)、オーバー・アナリシス(過剰な分析主義)、オーバー・コンプライアンス(過剰な法令順守)が引き起こしていると指摘している。

 読者がある程度の規模の組織に勤めているなら、3年程度の中期経営計画(いわゆる中計)に基づいて予算や活動計画が作られているのではないだろうか。多くの企業で中計は、戦略部門から現場の管理職までを巻き込みながら、積み上げ式で(時には積み上げた数字に経営者の希望的観測を加えて)、やたらと精緻な「未来の計画」として策定されていく。この策定にかかる労力たるや、大変なものがある。しかし、そこまで労力をかけた割には、中計が社員を鼓舞したという話は、とんと聞かない。細かい数値のみで構成される計画には、「未来の筋書き(物語)」がない。その数値も、過去の実績に経営者の希望的観測が上乗せされてできていると社員の大半が見抜いているからだろう。

 また、問題が起きるたびにチェックリストと手順が増え、新たな事件が世を騒がすたびに、形式的な仕組みが導入される現実もある。もちろん、ガバナンスやコンプライアンスは大切だ。しかし、不要になった、あるいは時代錯誤となったルールや手順を破棄する仕組みを持たない組織では、順守すべきルールや手順は積み重なっていく一方である。1つの議案を出すのに、数十のチェックリストの添付が、しかも出力して押印も必要という、笑えない話が出てきてしまう。なによりも、「オーバー・コンプライアンス」が進むと、付加価値を生むべき社員の時間の大半が「手続き」に押し込められてしまう。その病状がさらに進むと、「付加価値を生む(主)ための手続き(従)」であったはずの主従が逆転し、「手続きを行うこと」を仕事と勘違いする社員が増え、「手続き上手な社員を優秀と見なす」文化が広がっていく。

 この3つの過剰信奉による経営は、現状分析、エビデンスの確保や精緻な計画立案に社員の労力を割き過ぎ、立てた計画により行動を縛られ、何かをやるたびにルール順守の証明を求める。そして、「手続き」に時間と関心のほとんどを奪われた管理職や社員には、新たなことを仕掛ける「余力」は、もはや残っていない。また、エビデンス・計画・ルールでがんじがらめの組織空間には、何かを生みだす「余白」もない。こうして、日本企業は勇ましいイノベーションの掛け声をかけながら、新しいことを始められない組織体制を強化してきたのである。

【販売サイト】
Amazon
日経BP SHOP

※この記事を含む特集「 企業変革を推進する『ダイナモ人』を呼び起こせ」は日経クロストレンドに掲載されています。

この記事はシリーズ「日経クロストレンド」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。