企業SNSは宣伝ではなく、「対話」のツール

津田 企業からもSNSの活用方法について、よく相談されます。ただ、やり方を間違えると、ただアカウントを作ってマス広告と同じ情報を流すだけになってしまいます。「新商品が出ました!」といって、CMと同じ情報を流している企業も多く、本当にもったいないなと。企業SNSは、中の人が愛情を持って商品や企業の魅力を自分の言葉で伝えていくことが大事だと思います。

徳力 マスマーケの価値観でSNSを運用している企業は、単に自分たちの言いたいことを書いているだけなんですよね。それは、ただの宣伝行為。一方で、ファンベース的な考え方を持っている企業のSNSは、「対話」になっています。それは、ファンの声をちゃんと聞いているからです。

津田 SNSは本来、企業とファンの間にあった「壁」を壊せるツールですよね。

徳力 最近はオウンドメディアも増えていますが、マス的な運用がまだ多いように思います。パンフレットやセールストーク的な内容をそのまま転載していては一方通行の情報発信になりがちですし、担当者の悩みをお聞きしていると、社内でたくさん読んでもらってPV(ページビュー)を増やすことだけが目的化しているケースが少なくないようです。

 重要なのは、noteやTwitterのようなサービスは構造がフラットで、企業もファンもみんながアカウントを持ち、書く人であり読む人でもある状態だということ。「オウンドメディア」というと、つい自分だけが発信者と錯覚してしまいますが、違うんです。もう全員が発信者なので、みんなの会話の中に入っていかないと。

 例えばnoteでは、クリエイターに書いてもらった記事を「マガジン」機能でまとめて企業コンテンツと一体化するなど、まるで会話しているようなコミュニケーションが取れます。SNSでも、うまく行っている企業の中の人は、ファンに楽しく会話してもらうための話題を提供するファシリテーターのような立ち位置です。そういえば津田さんも、ネスレ時代に「自分は社員旅行の幹事のようなもの」と言っていましたよね。

津田 最終的に「幹事」である僕自身がやりたいことをやるんですけどね。(笑)

徳力 それでいいんですよね。何だかんだ津田さんは、自分がやりたいことを企画して、それを「楽しんでるファンを見ること」を楽しんでいたのが印象的。それは、ネスカフェ アンバサダーの顧客向けに開催したキャンプに参加したときも感じました。普通は、企業がお客さんをキャンプ場に招待したら、分刻みのスケジュールを入れて過剰に接待してしまいますが、いい感じに放置してくれました(笑)。あの雰囲気だから、ファンがリラックスして自分を開放できるんですよね。

津田 自分の好きなことを会社の仲間とやって、さらにファンに喜ばれるなら、素晴らしいこと。今はまだ、ファンベースの考えから遠いところにいる企業の中にも、きっと同じようにファンと一緒に成長していきたいと考えている人がいるはずです。何よりもまず、ファンベースを実践する中の人の熱意が大事だと思っています。

徳力 困ったことに、コアなコミュニティーの中の人たちは、本質的に黒子気質。「これは私の手柄だ!」とあちこちであまり話さないから、他の企業はその極意をなかなか学べないんですよね。(笑)

(写真/古立康三)

※この記事を含む特集「実践! ファンベース」は日経クロストレンドに掲載されています。

『ファンベースなひとたち
 ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー』
 ベストセラー『ファンベース』著者の佐藤尚之氏(さとなお、ファンベースカンパニー会長)と、ネスレ日本でコーヒーのオフィス向け定期宅配サービス「ネスカフェ アンバサダー」を大成功に導いた津田匡保氏(ファンベースカンパニー代表)の共著による待望の書。
 本書では、さとなおによる漫画版ファンベース最新解説に加えて、ファンベースに試行錯誤しながら取り組んでいる 「ファンベースなひとたち」の実践例を漫画と対談形式で紹介していきます。「中の人」はどんな思いで、どんな苦労を積み重ねながらファンと共に成長の道を歩んでいるのか――。漫画と対談で分かりやすくひもとき、最新の「実践ファンベース」をこの1冊で学べます。
 楽しいファンベースの世界へ、ようこそ!

Amazonで購入する
日経BP SHOPで購入する
まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「日経クロストレンド」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。