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 スープ専門店「スープストックトーキョー」やネクタイ専門店「giraffe(ジラフ)」などを手掛けるスマイルズ(東京・目黒)は企業経営の一環としてアート領域にも活動の幅を広げている。2015年に開催された「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」では、デンソーの産業用ロボット部門とコラボしてアート作品「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」を出品した。美術館運営や芸術文化支援という形ではなく、担い手としてアート領域のコアに入り込もうとするのが、遠山正道社長。一企業がそこまで踏み込むのはなぜなのか。遠山社長がアフターコロナに見ている世界を聞いた。

遠山正道(とおやま・まさみち)氏
スマイルズ代表取締役社長。1962年生まれ。1985年に慶應義塾大学を卒業し、同年三菱商事に入社。1999年にスープ専門店「スープストックトーキョー」開店。2000年に三菱商事初の社内ベンチャー企業として株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任した。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、「giraffe」、「PASS THE BATON」「100本のスプーン」など様々な事業を展開。

過去には、個人名義で個展を開いたこともあると聞きました。今、スマイルズがアート活動を展開するのはなぜでしょうか。

遠山正道・スマイルズ代表取締役社長(以下、遠山氏):アートは、いわゆるコストの積み上げのビジネスとは一線を画すところにあります。1万円の原価で作られた作品に、たやすく3万円や30万円の値が付きます。どうしてアートにはこうした価値が生まれるのか。この目に見えない価値の本質を探るために取り組んでいます。

 2015年に大地の芸術祭に参加したときには、デンソーウェーブの柵木社長と記者会見をしました。その中で私は「この活動は5年後、会社にとってなくてはならないものになっているだろう」と話しました。ちょうど今年が5年目です。今でもまだ可能性を探っている途中ですが、これが企業にとって価値の源泉を探る行為だという思いに変わりはありません。

2015年の大地の芸術祭に出品した作品「新潟県産ハートを射抜くお米のスープ300円」(写真:Gentaro Ishizuka) 

スマイルズでは飲食やアパレルなど多くの事業を手掛けていますが、そうした本業で真正面から価値を探るのではなく、なぜアートなのでしょう。

遠山氏:そもそも、自分たちの中にある価値を信じて企業活動しているというケースは、今の日本で少ないように思います。

 「世の中の状況を探って解を見つける」「自分の外にある価値をお膳立てして提供する」といった、市場主導の時代はもう終わりました。今はマーケットに耳を傾けるやり方ではなく、自分自身に価値を置いて世間に問いかける姿勢が必要です。例えば、昔の本田宗一郎氏はそうでした。ただ、今では産業が大きくなりすぎて、個の価値に重きを置く考え方は組織の中で邪魔ものになりかねません。

 20年前にまだ三菱商事に勤めていた頃、当時32歳の私は、(著名なプロデューサーの)秋山道男さんに「夢は何?」と聞かれて衝撃を受けました。企業人として、個人の夢を見る必要など全くない社会に生きていたからです。そこで、絵が好きだった私は「個展がやりたい」と自分の熱意で行動を起こしました。自分の意識を持って行動することは、いわゆるソーシャルビジネスの考え方に近い。「自分ごと」という考えは、今も社内で常に言い続けています。

 アートは、上司から何を言われるわけでもなく、マーケティングするわけでもない。アンケートを取って売れる絵を描くというのでもありません。自分の意志そのものにコンテクストや価値があるからです。ビジネスでもアートから学べることがあると思うのは、こういう部分です。外で言われたことをうのみにし、よそから借りてきた熱意に頼るのはよくありません。