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 「キャッシュは逃げていく。そして売り上げも急速に落ちる。より少ないリソースで生産性を上げなくてはならない。備えろ」

 米シリコンバレーに拠点を置く世界最大のベンチャーキャピタル(VC)、セコイア・キャピタルが3月5日に出した文書「コロナウイルス:2020年のブラックスワン」。スタートアップの創業者たちに新型コロナウイルスの影響を乗り越えるための心がけを説いた文書が、シリコンバレーの投資家やスタートアップの間で教義のように語られている。

 セコイアはITバブルが崩壊した2001年やリーマン・ショック直後の09年と同様に民間の資金調達が大きく軟化する可能性を指摘。運転資金や売り上げ、人員数、設備投資などのあらゆる計画を厳しい前提に立って見直すよう呼びかけた。

 とはいえ、書いてあるのは企業経営において当たり前ともいえる内容だ。それがシリコンバレーの生態系に衝撃をもって受け止められたのは、これまでが普通ではない状態だったということを意味する。

セコイア・キャピタルなどの有力VCの多くがオフィスを構える「サンドヒル」地域。名門私大のスタンフォード大学も近い(米カリフォルニア州メンローパーク市)

 不要不急の外出の禁止や、生活必需品以外の店舗の閉鎖などを行う「Shelter in Place」が3月中旬から始まったシリコンバレー。スタートアップの経営者や投資家も新型コロナの影響を身にしみて感じている。景気の悪化に伴いスタートアップ企業の評価額も下がった。50社ほどのスタートアップを中心とした株式を所有する個人投資家は「投資先の企業の保有株式の評価額が3割ほど減ってしまった」と明かす。

ユニコーンの解雇は全米で5000人超

 ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)が人員削減に乗り出す動きも顕在化している。民泊最大手の米エアビーアンドビーは5月5日に従業員の4分の1に当たる1900人の削減を発表した。ユニコーンを解雇された社員は全米で5000人超に上るとみられ、その半数以上がシリコンバレー周辺とされる。ユニコーンを卒業したライドシェア大手の米ウーバーテクノロジーズは5月に計6700人の削減を決めた。

 事業環境が悪化し、企業価値が下がり、新たな資金も調達できず、ありとあらゆる手を尽くしてコストを削減する――。新型コロナがスタートアップの生態系に及ぼす影響はシリコンバレーも変わらない(連載第1回「ロマンよりソロバン、起業家に迫る『出資見直し』の荒波」)。