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 「向こうから出資させてくれと言ってきたのに」。あるヘルスケア関連スタートアップの経営者は表情を曇らせる。

 事業の成長のために数億円規模の資金調達を計画していたところ、知人を通じて会った投資会社の担当者が「銀行と協調して過半を出資したい」と申し出てきたのが3月半ばのこと。ところが、新型コロナウイルスの感染が国内でも拡大する中、投資会社の態度はどんどん消極的になっていった。

スタートアップの成長資金や運転資金の調達に誤算が生じている(写真:PIXTA)

 当初予定した金額からは下がったものの出資の検討は続いたため、審査に必要とされた大量の書類の作成にも最優先で対応した。質問も幾度となく寄せられた。70通を超えるメールのやり取りを経て5月に投資会社から届いたのは、「出資を見送る」との回答だったという。「時間を返してほしい」と、このスタートアップ経営者は憤りを隠さない。

冷え込む投資意欲

 米CBインサイツなどの調べによると、2020年1~3月のスタートアップの資金調達件数は北米、アジア、欧州のいずれも前年同期を下回った。特に、事業会社がスタートアップに投資するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の意欲が減退しているようだ。1~3月の世界のCVC投資件数は前年同期比で24%減に落ち込んだ。新型コロナによって自らの経営環境が悪化した事業会社は、当面はスタートアップへの投資の意欲が低下するだろう。

 「4月までに投資が決まった案件は、新型コロナの影響からなんとか逃げ切ったという印象だ」。資金調達に動いていた別のスタートアップ経営者は、3月以降の資金調達環境の悪化を指摘する。投資会社や事業会社がスタートアップに対して一様に渋い反応を示すようになったのだ。スタートアップの資金調達件数はさらに落ち込む可能性が高い。

 将来が有望だと見せるのが得意なスタートアップが過大評価される「バブル」が終わっただけではない。かつて「骨太」と評された実力派のスタートアップですら、資金調達が進まず、成長のための資金を投じにくくなっている。「(前の投資ラウンドよりも企業価値が下がる)ダウンラウンドしか受け付けられない」。投資会社からこう言われたスタートアップ経営者もいる。

 そんな中でも一部の企業は活発に動き始めた。スタートアップはフットワークの軽さを生かして新規事業に取り組んだり事業の選別を進めたりしている。この時期でも変わらず積極的に投資する姿勢を見せる事業会社や投資会社もいる。スタートアップ支援を手掛けるドリームインキュベータの宮宗孝光執行役員は「投資を集められる企業と集められない企業に二極化する」と予想する。

 スタートアップは今、どう苦しみ、どのように生き抜こうとしているのか。その成長を資金面や経営面から支え、得た利益を次のスタートアップに投じてきた事業会社や投資会社はどう変わるのか。新型コロナをきっかけにしたスタートアップのエコシステム(生態系)の変貌ぶりを追う。

[ラインアップ(予定)]

▽成長シナリオに暗雲、スタートアップの資金調達環境が激変
▽売り上げ9割減も、市場消滅を耐え忍ぶスタートアップ
▽ソフトバンクGの巨額赤字が示すスタートアップ投資の行方
▽フットワークの良さこそ真骨頂、たくましく生きるスタートアップ
▽スタートアップの聖地シリコンバレーの今

──を順次掲載予定です。
(※内容は変更になる可能性があります)

この連載は、鷲尾龍一、佐伯真也、白壁達久、市嶋洋平、竹居智久が担当します。