バイデン政権の2030年目標

 冒頭で述べた気候変動外交とその後に論じた国内政策の結節点となるのが、バイデン政権がパリ協定の下で掲げる30年目標である。協定の規定上、米国は復帰時に国別の削減目標を提示しなければならないが、バイデン氏は公約の中で30年目標に触れていない。これまで論じてきたように、新規立法と既存法の下での規制強化の両方について不確実性が大きく、実際に政権が発足してみないと、政策に裏付けされた目標を提示しにくいのではないかと思われる。

 そのため、復帰時には暫定的な目標を提示しつつ、COP26までにどのような国内政策が実現可能であるのかを見極め、それを反映した目標を掲げるのではないかと予想される。新規立法の見通しが立てばその内容に沿った目標を掲げ、それが難しければ、既存法の下での規制や州政府の取り組みに基づく目標を掲げることになる。後者の場合は、大気浄化法115条を適用して、30年に05年比で40%減といった野心的な目標を掲げるかどうかが争点になるだろう。

 気がかりなのは、目標を提示する時点でその裏付けとなる政策が正式決定されていない可能性が高いことである。特に既存法の下での規制は策定に1年以上を要することから、COP26までに間に合わせることは不可能に近い。オバマ政権は09年に当時下院を通過した法案に基づいて20年目標を定め、14年には検討途中の規制的措置を見込んで25年目標を定めた。その後、法案は上院で廃案となり、規制的措置はトランプ政権によって撤回された。これらの前例を踏まえれば、目標の裏付けとなる政策が事後的に実現しない可能性が十分にあり、他国の視点から見れば、米国の目標の信ぴょう性に疑問符が付くことになる。バイデン政権は目標の野心度だけではなく、実現可能性にも配慮しなければならず、両者をどのように両立させるのかはかなりの難題となろう。

 外交と国内政策のもう1つの結節点として、HFCの削減がある。HFC削減は国際的には16年に採択されたモントリオール議定書の「キガリ改正」の下で進められているが、米国はいまだ批准していない。パリ協定とは異なり、キガリ改正の批准には上院の3分の2以上の賛成が必要となるが、既に述べたように上院では、HFCフェーズダウン法案への超党派の合意があり、その内容はキガリ改正に沿ったものとなっている。バイデン政権がキガリ改正を上院に送付すれば、多数派が共和党であったとしても、本会議で承認され、米国が同改正を批准する可能性がある。

米国はリーダーシップを回復できるのか

 これまでの議論をまとめると、バイデン政権発足直後は、外交面での取り組みが先行し、政権交代による米国の政策転換を国際社会に強く印象付けることになると予想される。国内政策の行方は、結果がまだ確定していない上院選挙次第ではあるが、新規立法も既存法の下での規制強化も実現は容易ではなく、どのような着地点となるかはすぐには見通せない。

 しかし、来年11月には目標強化が焦点となるCOP26が開催されることから、これに間に合うように国内政策の実現方法を見極め、30年目標を決めなければならない。そうした時間的制約の中で、実現可能性はあるものの確実とまでは言えない政策に沿って、見切り発車的に目標が定められる可能性もある。

 バイデン政権が、政権発足直後の勢いのある時期を超えて、気候変動対策における米国の強いリーダーシップを回復できるかどうかは、野心的かつ実現可能な国内政策の検討をCOP26に間に合わせ、国内政策に裏付けされた外交を展開できるかどうかにかかっている。

この記事はシリーズ「ESG 世界の最新動向」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。