国内政策は時間をかけて実現

 他方、国内の気候変動対策については、時間をかけて公約の実現を目指すことになる。バイデン政権には、「議会による新規立法」と「既存法の下での規制強化」という2つの手段があるが、いずれも容易ではないためである。

 バイデン氏は50年までに米国全体でネットゼロ排出を実現するとの長期目標を掲げた上で、その実現のために部門別の規制的措置とインフラ・クリーンエネルギー投資を行うと公約した。

 規制的措置として、例えば電力部門に対しては、35年までに全発電を炭素フリーとするため技術中立的なクリーン電力基準を導入するとの方針を示した。「技術中立」とは、CO2ゼロ排出であれば再生可能エネルギーだけではなく原子力発電やCO2回収利用・貯留(CCUS)付きの火力発電も認めるという意味である。米国最大の排出部門となった運輸部門については、野心的な燃費基準を設定しゼロ排出車の導入を加速させるとした。建物については、30年までに全ての新設商用ビルをゼロ排出化する新基準を立法すると掲げた。石油・天然ガスの生産に伴うメタン排出に対しても規制を強化し、連邦公有地での新規の石油・天然ガス開発を禁止する。

 インフラ・クリーンエネルギー投資については、政権1期目の4年間で2兆ドル(約210兆円)を投資すると公約した。投資先として注目されるのは電気自動車で、50万カ所の充電ステーション設置やゼロ排出車への買い替え支援を行い、メーカー、サプライヤー、関連インフラの整備で100万人の新規雇用を創出するとしている。そのほか、太陽光発電、風力発電、蓄電・送電インフラといった電力分野や、400万件の建物改修にも投資すると表明した。さらに、これらの投資による新規雇用に対して、労働組合への加入権を認めるべきとし、労働者保護の姿勢を鮮明にしている。雇用拡大を支えるべく、連邦政府の関連投資に際して、米国産購入(バイ・アメリカン)を条件付けて、製造業の国内回帰を促す。

 また、社会的に不利な状況に置かれているコミュニティが気候変動対策による恩恵から取り残されないように重点支援する「環境正義」も掲げた。

上院が握る新規立法の行方

 公約を実現するストレートな方法は新規立法である。規制的措置の一部は、既存法の下でも実施可能であるが、クリーン電力基準や新設商用ビルの排出基準などは新法が必要となる。インフラ・クリーンエネルギー投資への政府予算も、歳出法などの立法を要する。

 立法において重要な役割を果たすのは、連邦議会である。大統領選挙と同日に、議会上下両院の議員選挙も行われた。下院については、民主党が議席数を減らしつつも多数派を維持する見通しだが、もともと共和党が多数派であった上院については、11月8日時点において、どちらの党が多数派になるかが確定していない。そして、その結果が気候変動立法の可能性を大きく左右する。

 民主党が上院の多数派を奪取し、上下両院で議事進行を握れば、民主党主導で新規立法に向けて動き出す。その際に高いハードルとなるのが、上院本会議の採決である。上院では重要法案の本会議可決に定数100のうちの60票以上の賛成が必要となるが、民主党の議席数は60に遠く及ばない。60票に届かせるには共和党の一部議員の切り崩しが必要となるものの、公約通りの大胆な政策構想を支持する共和党議員はほとんどいない。

 そこで、60票というハードルを下げることが選択肢となる。一定の要件を満たす財政関連の法案の場合、「財政調整」という特別な手続きを用いれば過半数の51票で可決できる。インフラ・クリーンエネルギー投資はこの方法で実現できる可能性がある。他方で、規制的措置の強化は財政調整の対象外であり、その実現には60票ルールそのものを変えなければならないかもしれない。

 実は60票というハードルは過半数の賛成で引き下げ可能であるが、このルールには超党派での立法を促して立法プロセスの安定化させる仕掛けとしての側面もあることから、従来、ルール変更は支持されてこなかった。しかし、今回の選挙に向けて民主党議員の一部の間で気候変動などの新規立法のためにハードルを下げるべきとの意見が広がってきており、民主党が内部で結束できればハードルを下げて公約通りの規制強化を立法できるかもしれない。

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