JFEホールディングスは9月15日、同社で初となるCO2削減目標を発表した。2030年度の排出量を13年度比で20%以上削減する。また、50年以降の早い時期に、排出を実質ゼロにする「炭素中立」を目指す。13年度のCO2排出量は、日本全体の排出の5%に当たる約5810万t。これを30年度に約1200万t減らす。

JFEスチール西日本製鉄所福山地区で研究を進めているフェロコークス製造設備(写真:JFEホールディングス)
JFEスチール西日本製鉄所福山地区で研究を進めているフェロコークス製造設備(写真:JFEホールディングス)

 30年目標の達成のため、製鉄所で省エネや脱炭素技術の導入を強化する。削減に貢献するのが、独自開発のフェロコークス技術だ。高炉内の反応を高効率化させる技術で、製銑と呼ぶ工程のCO2排出を約10%減らせる。同社の広島県にある製鉄所で今年度にもパイロット設備の試験を始める。22年度に生産性やコストを検証後、5倍の規模となる実機の稼働を目指す。

「経営戦略の重要な要素」

 CO2排出量が多く、気候変動リスクが大きい鉄鋼業界に対し、ESG投資家がエンゲージメントを強化している。JFEも、気候変動対策に関するいっそうの情報開示が求められていた。

 日本の鉄鋼業は業界全体で目標を掲げており、JFEや他社が、1社でどれだけのCO2削減に取り組むかが明らかでなかった。粗鋼生産量で国内2位のJFEが、自らの目標と責任を明確にしたことは評価できる。神戸製鋼所も9月、初の単独目標を発表。日本製鉄も橋本英二社長が今年度中の開示を明言した。

 日本だけではない。9月30日には世界鉄鋼最大手の欧州アルセロール・ミタルも、50年までに炭素中立を目指すと発表した。

JFEホールディングス藤原弘之専務執行役員(写真:北山 宏一)
JFEホールディングス藤原弘之専務執行役員(写真:北山 宏一)

 投資家の期待に応えるため、JFEは昨年、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に対応したシナリオ分析に、経営層や生産現場までが取り組んだ。気候リスク・機会を精査し、対応策を検討するうち、「気候変動への対応は、持続的な成長を実現する経営戦略の中でも重要な要素であると、社内でクリアに共有された」と経営企画を担当する藤原弘之専務執行役員は振り返る。

 経営戦略の重要な要素と位置付ける以上、単独の目標と長期の対策方針の策定が必要だった。昨年9月、統合報告書でシナリオ分析を開示した後、個社目標の検討に着手した。

 製鉄のCO2排出は、生産量に左右される。だが、30年や50年という長期の鋼材需要は見通せない。23年度をめどに高炉を1基、休止する計画だが、他の高炉の生産増も見込まれる。藤原専務は、「排出増を抑える技術の開発と導入の手を緩めない。需要変動による排出量への影響も積極的に開示する」と話す。

 一方、「50年以降のできるだけ早い時期」に目指すと掲げたCO2排出実質ゼロの実現には、革新技術の実用化が不可欠だ。石炭の代わりに水素で鉄鉱石を還元する「水素還元製鉄」と呼ぶ、日本の鉄鋼業界で開発中の技術の実用化が鍵になる。加えて製鉄プロセスで排出するCO2を回収・貯留する「CCS」技術も必要になる。これらの技術を実装するには、大量の水素を安価に調達できることと、回収したCO2を貯留できる環境が必要になる。

 排出規模の大きい製造業が、気候変動を経営課題と捉え、本格的に乗り出した。ただ、長期にわたる脱炭素化の実現には、乗り越えなければならない山が残っている。

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