使用済み小型家電から金属を回収して作った「都市鉱山メダル」、再生ポリエステルの公式ウエア、選手村を走る自動運転の電気自動車――。「サステナブル」をうたった東京五輪で導入した環境配慮の活動が社会に根づくには、企業の発信と検証が必要だ。

柔道の阿部詩選手が掲げるメダルは小型家電の金属をリサイクルし、公式ウエアは再生ポリエステルで製作された(写真:代表撮影/日本雑誌協会)
柔道の阿部詩選手が掲げるメダルは小型家電の金属をリサイクルし、公式ウエアは再生ポリエステルで製作された(写真:代表撮影/日本雑誌協会)

 「段ボールベッドはエコフレンドリーだし、頑丈だ」。東京五輪の男子シンクロ高飛び込みで金メダルを獲得した英国のトーマス・デーリー選手は、ユーチューブで「五輪選手村ツアー」を配信し、段ボールのフレームでできたベッドは環境に配慮していると発信した。

エアウィーヴが提供した選手村のベッド。フレームに段ボールを使用。古紙としてリサイクルが可能(写真:Tokyo2020)
エアウィーヴが提供した選手村のベッド。フレームに段ボールを使用。古紙としてリサイクルが可能(写真:Tokyo2020)

 新型コロナウイルスによる延期や人権侵害発言による関係者の辞任などトラブルが続いた東京五輪。いざ大会が始まると、選手村のベッドは2人が乗って親密になれないよう耐久性を下げるため段ボールを採用したというデマがSNSに投稿された。

 すかさず反論したのが、寝具を提供したエアウィーヴだ。段ボールは木やスチールのフレームより頑丈で200kgの荷重に耐えられると説明。古紙としてリサイクルでき、環境に配慮していることも同社が段ボールを採用した理由だ。デーリー選手の発信は、同社のベッド開発の思いを援護射撃する形となった。

選手に伝えたウエアの由来

 東京五輪は「持続可能性のショーケースにする」ことを目指して準備されてきた。企業も持続可能性の財産(レガシー)を残そうと、何年もかけて環境配慮の製品や技術を開発した。しかし何度もトラブルに見舞われた五輪で、企業は持続可能性の取り組みを積極的に発信しづらい状況に追い込まれた。

 企業の持続可能性の取り組みの中には、レガシーとして残る優れた活動がいくつかある。象徴的なのが表彰式の風景だ。メダル、青い表彰台、日本選手が着ているオレンジ色の公式ウエアはいずれもリサイクル材で作られている。メダルは1621自治体で回収した小型家電とNTTドコモの店で回収した621万台の携帯電話からリサイクルした「都市鉱山メダル」。五輪初の試みだ。

 表彰台はP&Gの協力の下、イオンの約2000店舗や100以上の学校で回収した使い捨てプラスチック容器からリサイクルした素材を使う。

 公式ウエアはアシックスが再生ポリエステルで製作した。全国で回収した約4tの古着からポリエステルを含むウエアを選別し、化学的に分解。日本環境設計の支援を得て、脱色後、再び重合させてポリエステル樹脂をつくり、生地にした。

 アシックスは日本代表選手に、古着からリサイクルし、人々の思いを乗せたウエアだと伝えている。同社は30年までにウエアやシューズのアッパーのポリエステルを100%再生ポリエステルにする目標を立てている。五輪を通して社会の意識を高め、古着の回収率を上げたい考えだ。

体操の内村航平選手が舞った有明体操競技場は清水建設が建築し、天井の大梁にカラマツの森林認証材、観客席や建物外装に国産スギ材が使われた、(写真上:代表撮影/日本雑誌協会、写真下:藤田香)
体操の内村航平選手が舞った有明体操競技場は清水建設が建築し、天井の大梁にカラマツの森林認証材、観客席や建物外装に国産スギ材が使われた、(写真上:代表撮影/日本雑誌協会、写真下:藤田香)

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