ソニーグループや花王が、「2040年カーボンニュートラル」に向けて対策を強化する。 投資家からの要請が強まっており、実効性を示すことが企業の評価にも関わる。

 「我々は人々の存在する社会、地球環境に対する責任を果たし、技術や事業によって貢献することを重視している。2010年から取り組んでいる環境負荷ゼロは『責任』の事例だ」。ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEO(最高経営責任者)は、5月に開催した経営方針説明会の冒頭こう話した。

 同日、50年にバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの目標を、40年に10年前倒しすると発表した。取り組みが順調に進んでいたことから、実現可能性を精査して決断したという。

今年5月に開催した経営方針説明会に登壇したソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEO。企業の「責任」として、2040年のカーボンニュートラルを目指す
今年5月に開催した経営方針説明会に登壇したソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEO。企業の「責任」として、2040年のカーボンニュートラルを目指す

 カーボンニュートラル達成の鍵となるのが、取引先や製品の使用などで排出する温室効果ガス「スコープ3」の削減だ。実際、ソニーグループの排出の約9割を占める。

取引先の省エネを支援

 同社は、原材料・部品の調達先や製造委託先に対して、温室効果ガス排出量の把握や中長期の削減目標の設定とその進捗管理を求めてきた。毎年、主要な取引先から実績を収集し、状況を確認している。22年4月から、自社の工場で実施している省エネ活動を取引先にも展開し、排出削減の取り組みを強化し始めた。

 大気中のCO2を吸収、固定する技術の活用も進める。20年9月に立ち上げたコーポレートベンチャーキャピタルを通じて、関連のスタートアップへの投資を検討する。

 ソニーにとって「責任」を果たすことは、事業を継続するために必要な要件であると同時に、企業の評価にも関わる。世界の喫緊の課題である気候変動への対応は企業の経営リスクでもある。投資家は企業の取り組みを注視しており、情報開示を求めている。

 22年4月の東京証券取引所の市場再編で、プライム市場に上場する企業は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組みに沿った開示を事実上義務付けられた。ソニーも対象になっており、サステナビリティーリポートで開示している。

 脱炭素の目標を掲げる企業が増える中、実効性を示せるかどうかが評価を分ける。企業の取り組みを比較しやすくするため、IFRS(国際会計基準)財団が、TCFDを基にした世界共通の開示基準の策定を進めている。

 ソニーは、「非財務情報の開示と、開示を通じたステークホルダーとの対話の重要性は認識している。策定されつつある基準の内容を吟味し、対応を検討する」と言う。企業価値向上へ、開示をさらに進化させることが欠かせない。

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