足元の急激な資源高で電池コストの下落ペースが鈍化している。自動車大手は内製化を進め、電池メーカーはレアメタル削減やリサイクル技術で生き残りを狙う。

 5月12日、SUBARUは2022年度の決算説明会で、27年をめどに電気自動車(EV)の専用ラインを群馬県の大泉工場に建設すると発表した。国内のEV専用工場の新設計画はこれが初となる。自動車業界に詳しいコンサルタントのアーサー・ディ・リトルの鈴木裕人パートナーは「日本の本格的なEVシフトを象徴する動き」として注目する。

 国際エネルギー機関(IEA)が5月23日に公表した「グローバル EVアウトルック 2022」によれば、21年の世界のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の合計販売台数は前年比約2倍の660万台に達し、自動車市場全体の約1割を占めた。22年も第1四半期だけで200万台が売れており、このペースでいけば800万台まで市場は拡大しそうだ。

レアメタルの価格が高騰

 一方、EV覇権争いの鍵となる車載用蓄電池(EV電池)の市場で異変が起きている。順調だったコスト低下のペースが急速に鈍化した。その理由は、電池の正極材として使われる主要な金属価格の高騰だ。この1年半の間に、リチウムの価格は7倍以上、コバルトは2倍以上、ニッケルはほぼ2倍に上昇した(下の図)。

コロナ禍による経済の混乱やウクライナ危機の影響などで、21年1月から22年5月までの間に、リチウムの価格は7倍以上、コバルトは2倍以上、ニッケルはほぼ2倍に上昇した (出所:IEA「グローバル EV アウトルック 2022」)
コロナ禍による経済の混乱やウクライナ危機の影響などで、21年1月から22年5月までの間に、リチウムの価格は7倍以上、コバルトは2倍以上、ニッケルはほぼ2倍に上昇した (出所:IEA「グローバル EV アウトルック 2022」)

 「EVがエンジン車と価格競争できるようになるには、1kWh当たりの電池コスト100ドル以下が1つの目安になる。その時期は25年ごろとみていたが、数年延びそうだ」と、ゴールドマン・サックス証券の湯澤康太アナリストは話す。

 電池の調達リスクを考え、自動車大手は電池の内製化に本腰を入れ始めた。「30年の電池生産能力トップは中国CATLで、それに次ぐのは米テスラとみる。トヨタ自動車も目標の280GWhをほぼ自前の投資で確保するだろう」(湯澤アナリスト)

 鈴木パートナーも、「EVメーカーが電池セル生産まで内製化する垂直統合型にシフトするのは合理的な戦略。投資力のある大手はエリアや車種によって電池の外部調達と内製化を使い分けるバランス戦略を取るとみられる」と予想する。

(出所:ゴールドマン・サックス証券の資料、各社リリースを基に作成)
(出所:ゴールドマン・サックス証券の資料、各社リリースを基に作成)

 一方、急激な資源高にあっても、EV電池大手のパナソニックエナジーは冷静だ。リチウムの価格上昇は短期的なものでやがて調整されるとみる。コバルト不使用の電池も開発済みで、逆に「コバルトフリー」を武器に競争力を高めたい考えだ。産学連携で電池のリサイクル技術の開発にも着手した(囲み記事参照)。

 もともと電池は日本企業が強い市場だったが、ここ数年は国策として大規模な支援を受けている中国や韓国の企業にシェアを奪われている。
 ようやく日本の政府も動き出した。30年までに国内の電池製造能力を150GWh、グローバルで600GWhまで高める目標を掲げ、21年度補正予算で国内の製造基盤強化に1000億円を投入する。

 EV電池は、35年に世界で26兆円が見込まれる成長市場だ。そこで存在感を発揮するには、レアメタルのリサイクル技術で世界をリードし、投資を呼び込む必要がある。実現に向けては、素材・電池・自動車の産業間連携を深め、強力なサプライチェーンを築くことが不可欠だ。