「ニッケルレス」で存在感示す

 現状、EV市場をけん引しているのはテスラと、国策としてEV産業を育成している中国だ。当社は2008年からテスラのEVを支えてきた。電池の大容量化とエネルギー密度の向上に継続して取り組み、長い航続距離が要求される北米や欧州のEV市場で強みを発揮できると考えている。

渡邊庄一郎氏 パナソニックエナジー副社長兼CTO(最高技術責任者)(写真:パナソニックエナジー)

 最近中国の躍進が目立つEV電池市場だが、やみくもにシェアを取りにいこうとは考えていない。10%以上のシェアを確保して複数社から電池材料を安定調達できるサプライチェーンを構築していく。

 最先端の電池をテスラとともに開発してきたが、供給先が1社に偏るのは事業として脆弱であり、そこは解消したいと思っている。とはいえテスラの生産規模は大きく、当社の独自性を出してしっかり取り組んでいく。

 電池材料の価格高騰への対応は、2つに分けて考える必要がある。

 1つは、リチウムのように埋蔵量が十分ある鉱物への対応。今は短期的に需要が集中してインフレが起きているが、時間がたてば価格調整されていくとみている。現在も材料メーカーとの長期契約によって問題なく調達できている。

30年までにニッケルレスを実現

 もう1つは、コバルトやニッケルのように埋蔵量が限られる鉱物への対応。特に紛争鉱物とされるコバルトについてはEVにいずれ搭載できなくなるとみて、以前から使用量削減に努めてきた。現行製品の使用率は5%以下で業界をリードしている。さらにコバルトを使用しない、コバルトフリー電池の技術もほぼ確立し、現在テスラと性能評価など量産化に向けた話し合いを進めているところだ。

 次の開発ターゲットは、ニッケル使用量の削減だ。30年までに使用量を削減した「ニッケルレス」電池を実現する。

 世界ではニッケルの大規模リサイクルを域内で進めようとしている。欧州委員会は、域内で販売する電池に35年までにコバルトで20%、ニッケルで12%、リチウムで10%のリサイクル材の使用を義務付けた。産学連携の研究に参画するなどしてリサイクル技術にも取り組んでいく。

 同様に注視しているのが、24年から義務化されるカーボンフットプリント(CFP)の動向だ。基準値が極端に低く設定されれば欧州では電池を売れなくなる恐れがある。サプライチェーン全体でCFPを下げなくてはならず、日本は電力のCO2排出原単位が欧州に比べて大きいため生産拠点として不利だ。政府にクリーンな電力をさらに求めていく。

 世界では、新設される工場はもはやCO2フリーがスタンダードになっている。当社も28年までに海外も含めた全ての生産拠点をCO2フリーにする。

 30年に国内の電池生産能力150GWh、グローバル600GWhという政府目標は最低ラインだ。150GWhを生産するには数千人の人材を確保する必要があり、その育成が目標達成の鍵になる。(談)

2022年5月から米テスラ向け新型EV電池「4680」の量産に向けた試作を開始した。2023年度後半の量産開始を予定している (写真:パナソニックエナジー)
2022年5月から米テスラ向け新型EV電池「4680」の量産に向けた試作を開始した。2023年度後半の量産開始を予定している (写真:パナソニックエナジー)

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