そして何よりウェルチ氏が名経営者と言われるのは、CEOとして常に持続的な成長と企業価値の拡大に向けて、動き続けたことだ。
その典型が、00年10月の米航空機器大手、ハネウェル買収劇だろう。この時、ウェルチ氏はすでにイメルト氏を後任として公表し、引退まで2カ月という状況だった。
その時に、航空機エンジンのライバルである米ユナイテッド・テクノロジー(UT)が400億ドル(約4兆4000億円)でハネウェルの買収を決める。GEの体制移行期に目を付けて、UTが突き放しにかかった。
買収合意のその時、ウェルチ氏はニューヨーク証券取引所を訪問していた。取引所内で、テレビ局の記者にマイクを突き付けられて、ライバル2社の不意打ちを知る。その時、ウェルチ氏は「手は考えてある」と回答するのがやっとだった。
そのわずか3日後にウェルチ氏はニューヨーク市のホテルで再びカメラの前に姿を見せる。そして「GEが450億ドル(約5兆円)でハネウェルを買収する」と電撃発表した。
UTのニュースを知った後に、ウェルチ氏は2社に割って入り、ハネウェル経営陣と株主に好条件を提示して、情勢をひっくり返したのだ。条件の中にはウェルチ氏が引退を1年延期して、引き続き買収完了へ指揮を執ることも含まれていた。
米国において巨大M&Aは少なくないが、決定的に不利な立場をひっくり返す例はかつてなく、改めてウェルチ氏の行動力と交渉力を証明する形となった。
リスクを取らぬ経営者でない
その日、ハネウェル買収の発表やその後の経営計画について、ウェルチ氏は記者会見や証券アナリスト向けの説明会、そして大手テレビ局へのインタビューなど半日かけて延々と対応した。
早朝から始まった一連の会見が終わり、ホテルの部屋を出ようとするウェルチ氏に「少し質問をしてもいいですか」と話しかけてみた。やや疲れた表情だったウェルチ氏は、筆者が手にするノートを黙ってのぞき込むと、「少しと言ったけど、君は質問を5つも書いているではないか」と大声でジョークを口にして、その場で応じてくれた。
ウェルチ氏が強調したのは「引退間際の経営者だからと言って、リスクを取らないようなことはしたくなかった」という点だった。経営者として企業価値を高めるために、最後まで必死に動くことが大切と繰り返し、「GEとハネウェルは機械関連で似た事業をしているが、顧客を別々に持っており、相乗効果が大きく、これからも発展できる」とも語った。
後にこの買収劇は独禁法の観点から認可が下りず、流れてしまった。ウェルチ氏の執念は実現できなかったが、ライバルを止めただけでも大きな仕事となった。
伝説的経営者と言われるウェルチ氏だが、日々起きる事態に向き合った。時に環境団体から厳しい批判を浴びても、ライバル企業の不意打ちを食らっても、疲れ切った時にメディアに質問されても、自身の言葉と行動で説得に当たった。幅広いステークホルダー(利害関係者)の要求に全力で応える正真正銘の経営者だった。

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