「20世紀を代表する経営者」と称される米GE(ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウェルチ元会長兼CEOがこの3月に84歳で亡くなった。GEは発明王で知られるトーマス・エジソンが起こした会社。そのGEのCEOに1981年に45歳で就任し、約20年にわたって同社を率いた。家電事業が主体だった同社を放送局から金融、航空機エンジン製造などのコングロマリット企業に大きく変貌させた。在任中に売上高は5倍、時価総額は30倍にもなった。

時に手本として、時に反面教師として、ESGの概念を広く社会に定着させるきっかけをつくったジャック・ウェルチ氏(写真:AP/アフロ)

 ウェルチ氏の功績は事業拡大にとどまらない。今でいうESGの概念を経営者として、広く社会に定着させるきっかけをつくった。時に手本として、時に反面教師として。

 代表例は、米ニューヨーク州におけるハドソン川の汚染問題だろう。GEの工場から30年にわたって汚水が川に流れ込み、2000年に米EPA(環境保護局)が「住民に健康被害を与える恐れがある」と判断し、GEに汚染物質の除去を要請した。これがきっかけでGEの対応が問われて、全米を巻き込む社会問題となった。

環境問題を株主総会で議論

 環境問題であれば、一般的には市民や環境団体によるGEへのデモや抗議活動が起きそうなものだが、この時は別の展開を見せる。地元の宗教関係者や人道・環境団体が連携して、GEの株式を取得。株主総会でウェルチCEOと議論を戦わせる展開になったのだ。環境問題における企業の責任を公開の場で問う極めて珍しいケースとなった。

 筆者も01年4月に米アトランタで開かれたこの株主総会に足を運んだが、厳しい質問を飛ばす発言者に対して、ウェルチ氏が「GEは2憶ドル(220億円)を使って除去作業を進める」と約束。「GEの立場を説明するために使った広報活動の資金は1000万ドル(約11億円)」などと、今後の対応とともに経費まですべて自ら答えていたのが印象に残った(この問題はGEが15年に浄化作業を完了して、終結した)。

 批判を浴びた例とは逆に、手本と言えるのは、他社に先駆けて後継者育成とコーポレート・ガバナンス(企業統治)を融合させたことだ。GEといえば、幹部育成のための研修施設、通称“クロトンビル”が知られる。ここでウェルチ氏は自ら講師となり、選抜した幹部人材に経営を伝授した。

 中でも優れた3人であるジェフリー・イメルト氏、ロバート・ナルデリ氏、ジェームズ・マクナニー氏を次期CEO候補に指名。ウェルチ氏は、海外事業や投資案件など様々な仕事を与えて、徹底的に競わせた。そして、その評価は、社外取締役を含む外部の識者に依頼して、定期的にフィードバックを得た。

 取締役会における「指名委員会」は、今では当たり前だが、ウェルチ氏は後継者選びに数年間をかけて、かつ外部の視点を組み込み、株主が納得しやすい仕組みを整えた。イメルト氏がウェルチ氏の後任となっただけでなく、ナルデリ氏は米大手ホームセンターのホーム・デポ、マクナニー氏は米3Mのトップに就いたことは幹部育成の成果も証明している。

続きを読む 2/2 リスクを取らぬ経営者でない

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