5月10日に商社大手の2021年3月期決算が出そろい、伊藤忠商事が株価、時価総額、純利益の3つでトップとなる「3冠」を初めて達成した。決算会見で石井敬太社長COO(最高執行責任者)は、「3冠達成は10年にわたる利益成長とグループ一体となった努力の結果」と語った。

 伊藤忠商事は、企業理念に「三方よし」を掲げる。この「売り手よし、買い手よし、世間よし」は、現代における「マルチステークホルダー経営」だ。10年に1兆2980億円だった時価総額は今年、5兆6850億円と4.4倍になった。同社のESGの取り組みと企業価値の関係を見てみよう。

伊藤忠商事は10年かけて時価総額を上げ、2020年に入って時価総額トップに。21年3月期決算で株価、時価総額、純利益でトップに立つ3冠を達成した(出所:伊藤忠商事)
伊藤忠商事はPBR1.5倍、ROE12.1%で、同業他社と比べて両方とも高い。円の中心値がROEとPBR。ROEと時価総額は2021年3月期の実績を基に算出。PBRは日経会社情報より5月時点のもの。円の大きさは時価総額を表している(出所:伊藤忠商事)

将来成長を足元で示す

 伊藤忠商事と他の商社大手の違いは何か。同社の特徴は、高いPBR(株価純資産倍率)とROE(自己資本利益率)だ。PBRは株価を反映しており、成長期待を表す。他社が1倍を下回るなか、伊藤忠商事は1.5倍と頭一つ抜けている。ESGを含めた将来への期待が表れている。

 同社のSDGs経営の実践は早かった。持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択された翌年の16年には、部署ごとに定める行動計画が、169あるSDGsターゲットの何番に当たるのかを全部署でチェックした。世界の社会課題に自分がどう貢献するのか―。この問いかけと実践を全社員で徹底してきた。

 こうした取り組みが、現在の事業に結び付いている。蓄電池・再生可能エネルギー事業、プラスチックリサイクル事業、食品ロス削減事業などだ。3月30日にはSDGsに貢献する事業に資金使途を限定するSDGs債を総合商社で初めて発行。約540億円を関連事業に振り向ける。こうした長期視点の取り組みが、成長期待につながっている。

 市場環境の変化を捉えた素早い事業ポートフォリオ改革も特徴だ。今年2月4日には、南米コロンビアの発電用石炭の鉱山権益を21年度中に売却すると発表。23年度までに発電用石炭から完全撤退する。4月にはエネルギー・化学品部門のトップを務めていた石井氏が社長に就任し、市場を驚かせた。市場はこれを脱炭素の動きを捉えたエネルギー事業の加速と受け止めた。将来成長を足元から示すことも、現在の企業価値を高めていると言えそうだ。

続きを読む 2/2 「三方よし」でも投資家重視

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