1つは、CO2の排出に価格をつける社内炭素価格制度の活用だ。06年に導入した制度で、工場で省エネ設備などを導入する際の意思決定に利用している。具体的には、省エネによって削減できるCO2排出量を金額に換算し、その効果も加味して設備を導入するかどうかを判断する。
削減目標の引き上げに伴い、炭素価格を上げたり、対象範囲を拡大したりして、省エネ設備の導入を促進する。例えば、国内の工場だけだった対象範囲を途上国の工場に広げ、さらに、オフィスや研究所への導入も視野に入れる。
実際、国内でも炭素価格(カーボンプライシング)の導入が議論されている他、欧米を中心に製造過程で排出するCO2の多い製品の輸入に関税をかける国境炭素税の検討が進む。これらが現実になれば、CO2削減効果が大きいバイオマスボイラーなど従来は導入できなかった高価な設備の価値が上がり、導入のインセンティブが働きやすくなる。
もう1つが、再生可能エネルギーの利用拡大である。自社の拠点で使用する電力を30年までに100%再エネで賄う。目標達成に向けて、「RE100」への加盟を申請した。
自家消費用に太陽光発電設備を導入するとともに、購入電力を再エネ由来に切り替える。購入電力については、日本は23年までに世界は25年までにすべて再エネにする。従来はそれぞれ25年、30年を目標年にしていたのを前倒しする。購入電力の再エネ比率は、20年末時点で日本は65%、世界は41%に達している。


「カーボンリサイクル」の技術確立へ
カーボンネガティブに向けては、自社製品や技術による社外でのCO2削減を推進する。節水に寄与する洗剤、プラスチック使用量の削減に寄与する薄型フィルム容器などを提供する。製品での削減貢献に加えて、CO2を製品の原料にする「カーボンリサイクル」の技術開発を進める。これらによって、30年までに1000万t減らす。足元での削減効果は400万tなので倍増させる計画だ。
大谷氏は、「当社の事業で考えると、脱炭素においては企業の努力とともに生活者一人ひとりの低炭素な暮らしも大事。(花王の製品を提供することによって)それをいかに快適にしてあげられるか、技術や提案の見せ所になる」と言う。
カーボンネガティブは大きなチャレンジだが、脱炭素への移行に伴う政策や消費者の価値観の変化を捉えて新規需要を開拓すれば、事業を拡大するチャンスにもなり得る。

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