「気候変動が大きな課題になっていると思います。脱炭素についてはどうお考えですか」─。2021年3月26日に開催した花王の株主総会で、個人株主からこんな質問が飛び出した。日本の株主総会で脱炭素に関する“直球”の質問が出るのは初めてだったという。同社ESG部門ESG広報担当部長の大谷純子氏は、「個人の株主さまもそこまで意識が高まっているのだなと非常に刺激を受けた」と打ち明ける。

 花王は2年前に経営のかじを大きくESGに切り、CO2削減にも積極的に取り組んできた。19年4月に発表したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」では、自社製品のライフサイクル全体でのCO2排出量と、自社拠点からのCO2排出量(スコープ1とスコープ2)をそれぞれ30年までに17年比22%削減する目標を掲げている。

 ただ、重点課題に「脱炭素」を挙げてはいたものの、50年までにCO2排出量を実質ゼロにするという、パリ協定に整合した目標を明確に打ち出せていなかった。

 社外に目を向ければ、国内外の有力企業が相次いで脱炭素を発表し、20年10月には日本政府も宣言した。 投資家も企業に脱炭素の要請を強めている。世界最大の資産運用会社である米ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)は、21年1月に投資先企業のCEOに送った書簡で、自社のビジネスモデルをネットゼロ(脱炭素)経済に整合的なものに変革するための計画を開示するよう要請した。

 国内でも、第一生命保険が21年3月、運用ポートフォリオの脱炭素を目指すと発表した。排出量が多い投資先企業に対して、エンゲージメント(建設的な対話)を通じて削減強化を働きかける。

社内炭素価格制度を活用、再エネ導入も加速

 そうした中、21年5月19日、花王はついに脱炭素を宣言した。パリ協定の目標より10年早い40年に自社からの排出量を実質ゼロにするとし、一歩踏み込んだ。さらに、50年には自社製品や技術による削減貢献を合わせて、自社の排出量を上回るCO2を減らす「カーボンネガティブ」を目指す。19年に「SBTイニシアチブ」から認定を取得している「2.0℃目標」を「1.5℃目標」に引き上げて認定を申請中だ。SBTイニシアチブや国連グローバル・コンパクトなどが企業に「1.5℃目標」の設定を求める「Business Ambition for 1.5℃」にも署名した。

 今回の宣言に至る前、20年12月に発表した新中期経営計画「K25」で布石は打っていた。ビジョンに「豊かな持続的社会への道を歩む(Sustainability as the only path)」を掲げ、ESG経営の決意として「カーボンゼロ」を明言していた。

 花王ESG部門ESG活動推進部部長(ESG活動マネジメントグループ担当)の柴田学氏は、「K25で環境について踏み込んだ表現で発信していたし、社内で議論してここでギアチェンジすべきと判断した」と言う。

 脱炭素へのアプローチとして、30年までに自社のCO2排出量を17年比55%削減する。従来は同22%削減としていた目標を大幅に引き上げた。削減手段は大きく2つある。

続きを読む 2/2 「カーボンリサイクル」の技術確立へ

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