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 このような方向性は、昨年6月に欧州理事会(EU加盟国の首脳会合)が採択した「新たな戦略課題2019-2024」でも確認できる。この文書は、EUが取り組むべき戦略課題の4つの柱の1つとして、「気候中立で環境に優しく、公正かつ社会的な欧州の建設」を挙げている。

 14年の同様の文書では、気候変動はエネルギー政策にのみ紐づけられていた。この5年で、EUにおける気候変動対策の捉え方が変わったことが分かる。

復興を次世代の利益に

 EU加盟国の首脳は3月26日に共同声明を発出し、フォンデアライエン委員長と欧州理事会のシャルル・ミシェル議長に対し、新型コロナウイルスの感染拡大によって停滞した経済を復興させるためのロードマップや行動計画の策定を求めた。この時、復興政策にグリーントランジションを統合することを求めた。

 これを受けて策定されたのが、5月27日に提示された復興基金「次世代EU」である。フォンデアライエン委員長は、復興基金について「今日の危機を乗り越えるための連帯を示すだけでなく、将来に向けた、世代を超える協定」と表現した。そして、次の世代の人々が復興策の展開を通じた利益を享受できるように、欧州グリーンディールを復興の中核的な政策の1つに位置づけた。

 「次世代EU」は、「加盟国に対する支援」や「民間投資の促進」「危機からの教訓(保健プログラムの新設など)」の3つの柱からなる。資金の大部分は加盟国の支援に充てられるが、その際にグリーントランジションを促進することが強調された。

 具体的な要素として建物やインフラの改修、循環経済の推進、再生可能エネルギーや水素などへの投資、運輸やロジスティクスのクリーン化などが挙がった。また、復興のための公的な投資は環境配慮を妨げるべきではないと記された。

 現時点では、この復興計画案はあくまでも欧州委員会の提案であり、今後、EU加盟国による交渉(全会一致での合意)と、欧州議会の同意を要する。既に、市場から調達する資金の返済方法や、加盟国からEUへの返済義務の有無などの論点が顕在化しており、最終的な着地点を見通すことは難しい。

 グリーントランジションについても、制度設計の詳細はこれからの交渉の結果次第だ。しかし、復興計画案の公表前から、EU加盟国や欧州の産業界からは様々な意見が表明されている。

 例えば、フランスとドイツは、5000億ユーロ規模の復興基金を提唱するとともに、セクター(産業種)ごとの「グリーンリカバリー・ロードマップ」の策定を提案している。

 他にもバルト三国は、国ごとの取り組み以上に、国境を横断する取り組み、特にエネルギー分野の「共通利益プロジェクト」(PCI)への予算の分配を増強すべきと主張している。欧州電気事業連盟は欧州グリーンディールへの支持を再確認した上で再エネや省エネ、電化などへの投資促進を訴えている。

 こうしたグリーンリカバリーへの関心はEUだけにとどまらない。例えば、国際通貨基金(IMF)は、4月に「復興のグリーン化」と題するメモを公表し、取り得る政策措置の一般的なリストを示している。現時点では、コンセプトや理念に関する議論が多いものの、復興の計画や予算についての検討が加速するにつれ、グリーンリカバリーについても議論が具体化していくと予想される。

 「新しい生活様式」などの言葉にも表れているように、「コロナ後」の社会は、あらゆる面でこれまでとは様相が異なるだろう。5月26日に行われた、日本とEUの首脳らによるテレビ会議後の共同報道発表には、グリーントランジションや「環境と成長の好循環」が復興戦略の一部だと明記された。今後は、短期的な経済・社会の復興と、持続可能性などの長期的な視野をいかに統合するかが注目される。

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