欧州の350社が潜在顧客

 「技術はある。客もいる。後はビジネスとしてどう成立させるかだ」。CO2の海上輸送と海底貯留の事業化を目指す北欧石油大手のエクイノール(ノルウェー)。3月11日、日本の環境省が開催したシンポジウムで同社低炭素ソリューション部門のペル・サンドバーグ氏はこう話した。

 工場や発電所の排ガスから、化学溶液などを使ってCO2を回収し、地下の安定した地層に圧入するCCS。井戸を通じて地下数千mの帯水層にCO2を送り込むと地下水にCO2が浸透し、安定的に閉じ込められるという。サンドバーグ氏の発言通り、その要素技術は既に様々な業界で確立済みだ。今は商用化に向けてコスト削減の技術開発を各国のエンジニアリング会社が競う。肝は、CO2回収に必要なエネルギーの消費量削減と、貯留地の安定を見守るモニタリングの効率化だ。

 ノーザンライツと呼ぶこの事業は、北欧最大級の商用CCSだ。北欧沿岸部にある鉄鋼やセメントなどの工場、精油所、火力発電所などの排ガスから回収したCO2を、周回する船舶が積載するタンクに集め、海底下2600mにある帯水層に圧入するサービスの事業化を目指している。

ノルウェーで開発中のノーザンライツ事業で使われる船舶のイメージ(写真提供:ノーザンライツ)
ノルウェーで開発中のノーザンライツ事業で使われる船舶のイメージ(写真提供:ノーザンライツ)

 同社の他、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルとフランスのトタルが出資した。加えて、ノルウェー政府が総事業費の8割に当たる16億ユーロ(約2085億円)を投じた肝いりだ。

 2024年から年間150万tの貯留を始め、顧客との契約が増えれば貯留量を拡大する。船舶が着岸できる専用港を持つ工場や発電所など350事業所を潜在顧客と見込む。その総CO2排出量は3億tに及ぶ。

 60社が同事業での貯留を検討中で、12社が契約書を基に検討しており、21年中に最初の契約締結を目指す。米マイクロソフトなどとの間で覚書(MOU)も交わした。マイクロソフトは事業をモニタリングするデジタル技術を提供する一方、自社のCO2排出を相殺するための貯留も検討している。

 サンドバーグ氏は「交渉中の輸送・貯留の価格は明かせないが、30年には1t当たり30~55ユーロ(約3900~7160円)に引き下げたい」と話す。欧州では大規模CCSビジネスの本格始動が3年後に迫っている。

CO<sub>2</sub>は地下の「帯水層」に貯留する。帯水層は隙間が多くCO<sub>2</sub>をためられる。泥岩でできた「不透水層」はCO<sub>2</sub>が漏れないように遮へいする役目を果たす
CO2は地下の「帯水層」に貯留する。帯水層は隙間が多くCO2をためられる。泥岩でできた「不透水層」はCO2が漏れないように遮へいする役目を果たす

コスト削減へ開発競争

 CCSは日本などが目指す50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)に欠かせない技術だ。近年は回収したCO2を、単に貯留するのでなく、燃料や製品の原料として有効利用する技術の開発が本格化している。国際エネルギー機関(IEA)によればCO2回収・利用・貯留(CCUS)は将来、年間69億tのCO2削減に寄与する。50年以降も、どうしても排出されるCO2を相殺する役割が期待され、70年までの累積CO2削減量の15%を担うという。

 日本が20年12月に発表したグリーン成長戦略でも、50年に原子力発電とCCS付火力発電により電力のCO2排出を30~40%削減する他、鉄鋼やセメントなど産業の製造プロセスでのCO2削減でも期待される。

 世界では21件の大規模CCS事業が展開されている。その多くが、天然ガス精製やアンモニア製造で排出するCO2を回収するものだ。回収コストがガスやアンモニアの価格に従来から転嫁されているため、追加コストを抑えられる。またCO2は、油田に圧入すると油層に取り残された原油の粘度を下げて採取しやすくする「石油増進回収(EOR)」に使える。産油国を中心に、回収・貯留コストを上回る収益を得られる事業が主流だ。

 だが今後、コスト転嫁や収益増につなげづらいCO2排出源でも採用を広げるにはコスト削減が必須だ。

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