JFEホールディングスが脱炭素に向けた「トランジション(移行)」に必要な資金を調達する。独自の移行戦略を策定し、国内製造業で初となる債券を発行する。

JFEホールディングスは1月20日、資金使途をESG(環境・社会・ガバナンス)分野に絞る債券発行の決定を発表した。同社によれば発行額は300億円程度、2022年度上期の発行を検討しており償還期限や利率はこれから決まる。発行支援のストラクチャリングエージェントは野村証券が務める。
脱炭素に向けた「トランジション」に必要な活動に対して調達した資金を投じるトランジションボンド(移行債)を発行する。国内製造業では初の事例だ。製鉄のCO2排出源となる高炉を中心に、高度な省エネや高効率化を進める他、CO2排出を大幅に減らす技術革新など4分野に使途を限定する。こうした移行債の方針を、同社の「フレームワーク」としてまとめ、同日発表した。
省エネや高効率化のため人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)技術を採用する。また、高炉から排出するCO2を回収して鉄鉱石の還元に再利用する独自技術「カーボンリサイクル高炉」や、石炭を使わず水素で鉄鉱石を還元するCO2排出ゼロの水素製鉄の開発にも、移行債で調達した資金を投じる。
21年5月に発表した、24年度まで4年間の第7次中期経営計画には、グループの「環境経営ビジョン2050」を組み込んだ。鉄鋼事業のCO2排出量を24年度末には13年度比で18%削減し、50年に鉄鋼やエンジニアリング事業を含むグループ全体でカーボンニュートラル(実質ゼロ)を目指すという。
省エネや技術革新は実質ゼロの実現に必須となる。中計の4年で鉄鋼事業の脱炭素化に1600億円、グループ全体では3400億円(鉄鋼事業を含む)の脱炭素投資を発表した。移行債による調達資金も充当していく。
国際基準への適合で高い評価
同社は、移行債のフレームワークが、ESGファイナンスの国際基準にのっとっていることも発表した。グリーンボンド原則などを作った国際資本市場協会(ICMA)による移行債の国際基準、「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック2020」にのっとった。
第三者評価を行う日本格付研究所も、ICMA基準への適合を高く評価した。一般に、この基準への適合が評価された債券は、債券投資家の需要が高まる傾向がある。この基準は、資金調達者の移行戦略など4項目の開示を求めている。日本格付研究所は、JFEの中計や環境経営ビジョン、フレームワークが、ICMAの要件に沿うことを確認している。
国内製造業による移行債の発行事例が続くとみられるが、開示が必要な移行戦略などの策定も周到に用意しておく必要がある。
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