多くの患者が待ち、代替えがない新薬に、どう価格を付けるか。エーザイの内藤晴夫CEOは、薬が持つ「社会的価値」を訴えた。
エーザイは1月7日、米バイオジェンと共同開発した認知症のアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」について、米当局から医薬品として使用を許可する迅速承認を得たと発表した。早期の患者が対象で、原因物質とされるたんぱく質「アミロイドベータ」を脳内から除去することで、症状の悪化を27%緩やかにする効果があるとされている。
世界保健機関(WHO)の推計によると、世界の認知症患者は5500万人を超える。認知症は、患者だけでなく家族や介護者をはじめとする社会全体への負担が大きく、世界的な社会問題となっている。新薬のレカネマブは、原因物質にアプローチして病気の進行を遅らせる効果があるとされ、待望の新薬として期待されていた。
社会的価値から価格を算出
この世に代替する薬がない「画期的新薬」の価格付けは難しい。こうしたなか、米国でのレカネマブの価格は年間2万6500ドル(約350万円)に設定された。
1月7日の記者会見で内藤晴夫CEO(最高経営責任者)が力を込めて語ったのが、価格設定の根拠だ。「価格決定に当たり、医薬品の社会的価値を考えた。そして、全てのステークホルダーと社会への価値還元を追求した」と話し、具体的な数値を示して説明を始めた。

新薬の社会的インパクトを、「投薬患者の年間価値」と「投薬患者数」を掛け合わせて算出した。
「投薬患者の年間価値」は、0~1で示される健康度の増加分(0.64)、支払い意志額(20万ドル)、標準治療との費用差額(7415ドル)、投与期間(3.6年)の4要素で算出し、3万7600ドル(約500万円)とした。
「投薬患者数」は非公開としたが、内藤CEOは新薬の対象患者について、「3年後には米国で10万人、2030年には世界で250万人に上ると推測している」と話す。この結果、レカネマブには数百億ドル(数兆円)の社会的インパクトがあるとした。

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